トルク計の使い方

本研究室では、風力タービンの性能試験を実施することが多く、この計測はある程度簡単にできるようになっています。計測者は、実験のセッティングをきっちりと行い、専用ソフトウェアで単純化された作業で結果を逐次参照しながら計測を行い、あとはデーター処理を行い分析、考察する、という3段階の作業で、目的のタービン性能が得られます。

したがって、“人”としての実験実施者が、実験前の企画、模型設計をどれだけ適切にできるか、が得られるデーターの信頼性に関わってきます。

性能特性で計測する代表的な計測値はトルクです。実験では、風速を設定し、タービン出力によって影響されるその風速を計測しながら、設定値である回転数を逐次選択し、その時々のトルクを計測する、という単純作業を繰り返します。現在は、あまりにも単純作業化してしまったこのルーチンの自動化作業中です。

さて、この時計測で重要な役割を演じるのは、「トルク計」です。カタカナでは「トルクメーター」です。

トルク計は、計測する軸に対して、その両端に作用する力であるトルクを計測するものです。その原理は、

1.ニュートン力学の作用反作用の法則を基本に、
2.軸のトルクによる微少なねじりひずみを検出する

ことです。

したがって、機械的設定は、計測する(したい)軸の両端に接続する(あるいは直結する)“何か(たとえば駆動モーターと駆動される装置)”に対して、その間にトルクメーターを挿入します。つまり、二つの”何か”の軸の中間にトルク計を設置します。

トルク計の設置方法例

図1     トルク計のセンサー接続例

トルク計の仕組みは、上述のように、軸に加わるトルクによって生じるその軸のねじりひずみを計測することです。元祖、軸のひずみはひずみゲージによって計測されました。トルクメーターの場合は、軸が回転する場合がほとんどですので、回転する軸に貼り付けられたひずみゲージから通電用のワイヤーを引き出さなければいけません。そこで、回転接点を用いて、センサー外部と回転するひずみゲージとを接続していました。しかし、回転接点は、摩耗によってやがて接触不良が生じる、などの機械的問題点があります。そのため、各メーカーでは様々な工夫が為されました。

さて、本研究室では 小野測器(ONO-SOKKI)製 のセンサー本体として「小・中容量用トルク検出器 SSシリーズ」、変換器として「トルクコンバーター TS-2700(後継機 TS-2800)」を使用しています。

小野測器では、回転軸のひずみを、軸のねじれ角としてセンサーを用いて計測する非接触センサーを開発したようです。ところが、この方式では、ケース側に取りつけられているセンサーは、軸のマーカーがセンサーの位置を通り過ぎるタイミングを計ることでひずみ(回転位相差)を得ているようなので、かりに、軸回転がゼロだと、永遠に計測ができず、低速回転でもその計測のゲートタイムが異常に長くなってしまいます(相対回転数が概ね200rpm以上必要。ダメな場合は信号がなくなりTRQインジケーターが消え、READYインジケーターも消える)。

そのため、センサー内部に”内部モーター”と呼ばれるモーターを挿入し、センサーも回転させて、軸が静止していても、一定のサンプリング時間で計測できるようすることで、この問題を解決したようです(軸回転が200rpm以上であれば計測可能)。

ところが、この内部モーター(あるいはセンサー)の回転数は概ね500-600rpm のようですが、この回転方向が計測対象の軸と同方向だと、センサーの回転数と対象軸の回転数が一致したとき、相対回転数がゼロになって計測不能になってしまします。これを避けるためには、二つの回転方向を反対向きにする必要があります。

            図2 トルク計内部モーターの仕組み

仕組みはこれでわかるのですが、この計測器の説明書が非常に難解です。まず、なぜか「駆動」と「負荷」にこだわります。トルク計の説明に合ったように、軸にかかるトルクを計測するだけなので、その両側の機器が何なのかは本質ではありません。見方を変えれば、これらはどちらも駆動や負荷とも言えます。上の図1がそのよい例です。右端の事例の場合、モーターと風力タービン、いったいどちらが駆動なのでしょうか?センサーの表示は無機的に、せいぜい「A側」、「B側」で十分です。

次に、説明書では回転方向を定義します。実際には前置きが長いのですが、簡潔にまとめれば、センサーの指定側から見たときの回転方向を基準にする、という意味にまとめられそうです。

そしていよいよ、この説明書の難解な部分です。実験の機械的設定が決まれば、軸回転方向が決まります。あとは、上述の内容を踏まえて、内部モーターの回転彷徨をセットするだけです。説明書の文章ではなかなか理解が難しそうです。

メーカーWEBサイトのFAQの、「トルク検出器の駆動側を逆に負荷側に取り付けたらどうなるか」の項目にヒントが書かれています。

よって、検出器のCW/CCWの切替えスイッチを選択するとそれぞれ軸のCW/CCWと逆回転をするようになっています。

この文章から、内部モーターを軸と逆回転させるためには、”モーター回転方向設定トルグスイッチを、そこに書いてある矢印マークが軸の回転方向と一致する側にセットすればよい”、といいたいようです。

スイッチに CW/CCW と記載して「トルグスイッチは軸回転方向に合わせてください。」ですみそうな気がします。

以上より、本研究室では、以下の手順で機械的設定を行う。

1.トルク計検出器のトルクメーター軸に曲げモーメントが加わらないように軸心を合わせる(メーカー既定、0.05mm)
2.トルク計軸にスラスト(軸方向)荷重が加わらない状態でカップリング接続、固定を行う
3.「駆動側」ラベル添付サイド(回転計付属側)からトルク計を見て、実験実施の回転方向を時計方向(CW)/反時計方向(CCW)のどちらかかを確認する
4.トルク計の内部モーター回転方向選択トルグスイッチを、軸回転方向と同じ方向の矢印表示側にセットする

5.内部モーター回転のため、モーター用電源を接続し、モーター回転を回転音で確認する。
6.タービンを手で実験する回転方向に回し、変換器の表示トルクが正となるように、変換器のCW/CCWボタンをプッシュして切り替える。
7.実験実施後、軸回転数が 500-600rpm あたりで、変換器インジケーターに異常がないか確認する。