[20A] なつかしの不具合 ~ きかいのき_翼のある乗り物、二点

特殊な事情で、着陸時に通常航空機よりも低速で進入する必要がある場合、通常よりも高迎角で飛行する必要があります。そのような場合、翼の前縁剥離を防ぐために、流体工学的工夫が必要になります。それが前縁フラップです。当然これを実現するためには、機械工学的設計の機構の工夫が必要になります。そこまでできなければ、俗に言う、絵に描いた餅、です。工学的には何の価値もありません。

前縁フラップが作動すると、文字通り、翼の前縁が普通は下方に折れ曲がって、翼前縁付近が頭を下げたように変形します。教科書的には、前縁が下がることによって翼弦の迎角が小さくなります。一般的には、前縁部分が展伸して下方に下がり、場合によってはスリットが形成されて運動量補完させるものもあります。そういう場合は、前縁スラット、と呼ばれたりするようです。スラットの場合でも、外見は講演のフラップのようにはあんまりすきまがはっきり見えません。高圧側なのですきまさえあれば運動量供給ができてしまうのかもしれません。

流体工学的効果はこの程度にしておいて。さて、いつも流体屋の要求は構造屋さんを悩ませることになることが多いようです。このような前縁フラップ、ただでも薄い翼に機械的に収納したり、展伸したりさせる機構は結構たいへんです。しかも、翼ですから、そこにかかる空気力の総計は結構なものです。取付部分にかかるモーメントを想像すれば、応力の大きさも少しはイメージできるかもしれません。その動作は、思いの外速く(個人差がありますね)、反力は、翼面をたわませるほどでした。そのような動作をさせる機構をまずは創造してみてください。

本研究室で風洞を使用した学生さんなら、風の力がどの程度かを実体験しているので、機構と同時に強度が重要であることはわかるでしょう。そしてその強度に対抗して動作させる作動力も見当をつけることができます。したがって、翼だのそばには、当時は油圧アクチュエーターが配置されていました。現代では、特に旅客機に乗っていると、舵面でも脚でも、動作させるには一定の時間が必要で、作動中は結構大きな音でゥィーーーーーン、とうなっていることにお気づきと思います。そう、最近は何でも電動です。力が必要なら減速してトルクを増やします。したがって、動作には少し時間がかかるようです。

そうこうしているうちに、フラップの作動機構を創造できたでしょうか。

ネットに転がっている航空機の構造図の中には、細かいところまではなかなか記載されていませんが、きちんとアクチュエーターや周辺作動機械機構の概略が描かれているものもあると思います。
あ、そもそもアクチュエーターなんていく言葉が通じていないかもしれませんね。当時はアクチュエーターと言えば油圧。最近は電動でもアクチュエーターと呼ばれますので、電動装置敷かないって思っている人も多いかもしれませんね。アクチュエーターなんて言っても、機械系アクチュエーターは、用は油圧、空圧、水圧のシリンダーです。、、、あ、シリンダーも通じないか・・・・^^; シリンダーなので容積変化で変位を生じさせます。つまり直線運動発生装置です。アクチュエーターは舵面に組み込まれていたりします。

簡単な概略図で記せば以下のようになります。

 

このとき、アクチュエーターは片方は舵面のラグに、もう片方は駆動用リンクにいずれもピンを用いて接続されています。このラグが、破断するという不具合が発生しました。ここが破断すると、前縁フラップが宙ぶらりんになって、飛行時にはあまりよろしくありません。実際、図面を見れば、きっちりと機能しているので、計算書と突き合わせても、まったく応力的に問題がなく、損傷に至る理由はわかりませんでした。

そのうちに、現場からは交換して取り外した部品が届きます。これらを観察すると、ラグの相手側の角に、あたりが生じている痕跡がありました。そもそも、ラグなんですから、どこかが当たるようなものではなく、

 

結局、メーカーから届いた部品の寸法が、図面寸法より永く、その先端が、先突きしていて、その反力で設計外の応力がかかっていたようです。つまり、フラップを動作させるたびに、無理矢理固持手大きな力がかかり、構成のアクチュエーターではなく、アルミ合金側が変形するとともに破断に至った、ということになります。

現代では受け入れ品証などがあるので、部品の寸法チェックを行っているでしょうから、このような事例は起こらないでしょう。それでも、何かトラブルが生じたら、まずは設計図と現物部品をしかりと比較確認することは、意外と滅多にないトラブルの早期原因究明につながるかもしれません。もちろん、納品時のチェックを怠らないことの方が安全で効果的ではあります。