[05] 強度設計(1) 静荷重強度 きかいのき_翼のある乗り物、二点

先日(2019/4/09)、日本に配備されたF-35Aが訓練中に墜落しました。未だパイロットが見つからず、非常脱出できたかどうかと言うことも有り、救命筏の発見もない状況でパイロットの生存は厳しいようです。無事救助できなければ、機体捜索、発見、回収まで待たないといけないかもしれません。最近の機体では、機械工学的な欠陥による機体損失より、制御系不具合によって損失することが増えているようです。中華航空140便事故や最近の原因不明の737MAX機事故のようにソフトウェアトラブルが予期せぬ事故を起こしています。もちろん、それがきっかけとなり機体に想定外の荷重がかかって二次的な機械的損傷を受けているかもしれません。最近は民間機にも導入されている高機動なフライングHスタビならなおのことです。

さて、翼のある機械の代表である航空機では、これまでに大きな事故を糧にして、強度設計が進歩してきました(前話)。

高等教育機関のひとつでは、生まれて初めて強度設計をさせられた人は、いくつかのパターンに分類できそうです。

ひとつめは、訳がわからなくて右往左往のパニックするかあきらめの境地をえて自宅で禅にふけるグループです。心配ありません。本機械工学課程では、教科書の数字を書き換えて再計算することが単位取得条件です。まずは深呼吸して落ち着きましょう。

二つめは、少し理解があり、そこに説明もなく一気に登場する数々の用語が何なのか悩んで見て、結局は単位取得に必要な作業を理解することで作業を始めるグループです。教員に聞いても明確な答えが得られない組み分けグループもあるので、それは本課程の教育指針に照らし合わせても大人な判断と対応です。日本的社会適合者です。

三つめは、本当に機械設計を理解しようとするグループですが、もう近年では皆無だと思います。

日本を背負っていく?気があるのかないのかわからない未来の機械系技術者の卵たちの状況はここでは横に置いておいて、今回から4回ほどに分けて、簡単な強度設計ポリシーの理解のための(ヒントの)お話です。

ここでは、授業でも曖昧にされている強度設計について、ホントは一番大切な設計ポリシーに少し振れてみます。その一回目は静荷重です。

 

最も簡単な荷重計算です、材料力学の演習問題では。しかし、大学で習うようなそんな計算では、実際の機械は設計できないことも習っているのですでに理解しているしょう。

今でもよく教育の場で使用されているのは、アンウィンの安全率を用いた設計です。
そもそも、安全率を使用するのはなぜでしょうか。許容荷重があって、材料強度があって、安全率がある。許容か10って何なのでしょうか。材料強度ってそんなにしっかり決まるものなんでしょうか。ネットでは日本製の品質がいいと言っていますが、材料の品質って何なんでしょうか。もちろんそう言うことがわかっているからこそ、機械設計を理解できて、教育の成果が上がると言うことでしょう。いかに、オーソドックスなアンウィンの安全率を示します。

アンウィンの安全率

 

材料

 

静荷重

繰り返し荷重(疲労荷重)

 

衝撃荷重

片振

両振

鋳鉄

4 6 10 15

軟鋼

3 5 8 12

鋳鋼

3 6 8 15

5 6 9 15

木材

7 10 15 20

 

 

 

学生さんたちが、将来、他人様の命を預かるような重要な機械の設計業務に携わりたいと思うかどうかはわかりませんが、このような安全率の設計で、自分の命を預けたいでしょうか。アンウィンの安全率では、機械はかなり重厚なものになりそうです。この設計手法で作った飛行機は、きっと墜落はしないでしょう。滑走路の端っこの壁に激突することはあっても。

空中に浮かぶためには、重量を軽減する必要があります。そのためには、比強度の高い材料を使用する、強度的に効率的な形状を利用する、そして安全率を減ずる、です。

材料の変更はそのままコストに跳ね返ることが多そうです。形状の工夫、これは機械設計の醍醐味です。もっとも安直なのは安全率の低減です。この安全率の低減は、第2世代的には経験に基づいて削減します。経験。そう、経験です。一度やってしまったら二度目からはもう慣れっこ、です。最初はドキドキしますが、うまくいったらこっちのもんです。もっとも、現実には静強度試験という裏付けを用いるでしょうけど。

ところで、以下のような材料試験結果があったとき、あなたはどのようにして材料強度を計算して報告しますか?

回数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
強度 80.2 80.6 75.1 86.7 71.8 77.5 83.1 74.8 84.9 85.3

材料強度は算術平均で 80 でしょうか。それとも最小値で71.8でしょうか。もしも算術平均で部品を設計すれば、(仮にわかりやすく安全率1とすると)設計荷重がかかったとき、半分の部品が壊れます。もし同様の設計思想による部品10個で構成された命に関わる機械なら、0.510 の確率でしか生き残れないでしょう。たとえ最小値を選択したところで似たようなものです。その最小値はたまたま今回の試験の最小値なのですから。事故を防ぐためには必要以上に大きめの安全率がどうしても必要になってきそうです。

 

これが、従来の静強度(など)の安全率中心の設計ポリシーです。以上のことを踏まえて、疑問が湧いてきたのであれば、機械設計の担当のえらい先生方に授業で質問して、より知識を深めてみてください。

・・・今回はここまで。次回は疲労強度設計です。