[02] 構造コンセプト 翼のある乗り物、二点

翼のある機械02

構造コンセプト 強度を持って形を維持しながら、究極に重量を削減するにはどのような構造がよいのでしょうか。 って、そもそも学生の皆さんは、「構造物」を自分で考え工夫して作った経験は当然あるのでしょうね。

 大学の材力で断面係数について学ぶまでもなく、どこでどのように力を保てば、同じ材料でよりよく大きな力を保持できたり、たわみを抑えてしっかり保持できたり、なんていうことは経験的に裏付けはできているのでしょう。まさか、何でもかんでも無垢材とその直径で力付きで解決する、なんていうことはさすがにないのでしょう。

 そういう力学に支えられた思想(発想、創造)で選択できる構造は、その機械の求める要求によって、微妙に選択が分かれるのかもしれません。こういう選択は、構造方式とでもいうのでしょうか。先人の経験をまとめ工学は、各人の思想の選択をサポートするものです。

 航空機、船舶、乗用車、大型乗用車、鉄道車両など、戦後は航空機技術の応用の影響で、差異はあるものの、モノコック構造が主流になっているようです。開口部が非常に多いバスなどは、下部構造と上部構造(天井)の間がどのような構造強度コンセプトかはわかりませんが、乗用車では、大きなドア開口部も、可動ドアと結合することで必要な荷重を車体に伝達しているようです。レース用車両でも複合材料の導入によってモノコック構造が常識になっているようです。フレーム構造はもはや一部を除いたバイクくらいかもしれません。そのフレームですら、ローカルに見ればモノコックだ、と言えてしまいそうです。もはやフレーム構造は、無垢材で装置を組み立てる学生さんの装置くらいかもしれません。

航空機の円筒形の機体は、フレーム構造とモノコック構造を説明するのには便利かもしれません。

フレーム構造

黎明期の航空機は、木材や金属パイプの貫通材(ストリンガー)と、その位置を保持する穴あきのバルクヘッド(隔壁)の組み合わせで形状と強度を維持し、表面には布張りで外型あるいはフェアリングを製作していました。この時、外板には強度を持たせないので、フレーム構造としたようです。実際には、若干のテンションは担えたのでしょうけど、それらはワイヤーを使ったりもしました。

モノコック構造

その後、さらに強度を上げる為、金属製外板が採用されて、曲げによる引張圧縮荷重と、捻りによるせん断力とを分離してになう構造に発展しました。もちろんその前に、木材や金属とのハイブリッドでもモノコックは導入されました。小型機では、胴体断面も大きくはないので、板材を丸めただけでもある程度の形状の維持ができます。しかしながら、さらに材料を薄くしていくと、座屈を防ぐために補強材を入れ、応力を分担する方が構造効率が向上します。つまり、重量当たりの強度が上昇します。この時に応力の仕分けをすればするほど効率が向上するため、機械設計工学が威力を発揮するわけです。裏返せば、負担しない応力に対する強度は全くと言っていいほど保たなくなります。

補足説明

あまり機械設計やこれまでに工作に興味がない人に補足すると以下のようなイメージです。

 フレーム構造では、剛性のある棒状フレーム材で、2つのドーナツ状のフレーム材を接合します。その表面に、ティッシュのような薄い膜(スキン)を張っても、強度は保たれ形状も保持されます。
まずは、同じ形状のものをモノコックで製作する場合、曲げても形状が維持できるような、例えば厚さ1mm程度の鉄板やアルミ板をまぁるく曲げてスキンとします。曲げた両端を溶接やリベッターで留めればしっかりした円筒ができます。例えばドラム缶のようなものです。
ところがドラム缶では、板厚があるため無駄に丈夫で重量があります。それでも強度をあげるためにフレーム状のバンプが付いています。 そのため、もっと軽量化するために薄い板でスキンを作成すると、円筒表面が撓んでしまい、断面形状も変形します。これでは必要な強度を満たしているとは言えません。そこで、例えばスキンの両端に薄いドーナッツ形状の板(フレーム)を接合します。これで形状が保てると同時に、かなり重量を軽量化できます。
さらに軽量化を目指して、板厚をもっと薄くします。そうすると、両端のフレームを支えることができずに軸方向に潰れてしまいます。これでは困るので、スキンを波板にしたり、スキンの裏側にストリンガー(縦通材)を加えます。ストリンガーは圧縮に耐えればよいだけなので軽量な部材で十分です。ただ、2、3本を単純に追加するだけでは、軸周りのねじれの強度を取れません。そこで、ストリンガーとスキンを接着等で一体化させます。そうすれば、薄い板は引っ張りだけを担いパネルのせん断力を担えるのでねじれを防ぐことができます。ちょうど四角いパネルの対角線にワイヤーを張るような感じです。このパネルが二次元的であれば理想的なので、パネルの幅、つまりストリンガーの間隔(本数)を増加して調整します。このうち一部のみしか強力な縦通材は必要ありません(ロンジロン)。ストリンガーやロンジロンを、スキンとフレームで挟めば、さらに剛性が高まります。

セミモノコック構造

さて、ここで何か気づかないでしょうか。

モノコック構造といっていたのに、いつのまにか構造にはスキン以外にフレームとストリンガーがいっぱいです。これではまるでフレーム構造です。でも、マクロに見れば構造の外殻が荷重を取っています。このような構造は、セミモノコック構造と呼ばれます。 スキンも、さらにその断面を断面係数の考慮やモノコック構造と重ねれば、ハニカムを用いたサンドウィッチ構造のスキンの採用にも至ります。

 新しい構造用語が溢れているように思うかもしれませんが、構造力学的には全て同じ、とも受け止められないでしょうか。そう受け止められれば、つぶしの効く機械系技術者への道をすでに歩き始めているかもしれません。

 結局、機械構造設計とは、構造は形式にとらわれるのではなく、要求強度と材料強度をもとに、構造を最適化して必要な構造強度を実現する作業なのです。できあがったものを、後付けで、権威ある先生方が命名し、一般技術者はそれに従うだけなのです。

 さらに機能を発揮する可動構造まで含めて設計できる能力が、機械系技術者の基本スキル、だと思うのですがいかがでしょうか。