きかいのき 翼のある乗り物、二点 はじめに

はじめに ~ きかいのき 翼のある乗り物、二点

 

平成も最後の年、あと二ヶ月たらずとなりました。

 昭和の時代、機械といえばその花形は運輸機械。自動車※1はもちろん、世界で最も大きな機械であるタンカーをはじめとする造船業の船舶※2、当時まだ他業界と比べて特殊だった設計法※3を用い、主に小型機を製造していた航空機製造業の飛行機※4、などでした。

 そのほかにも、もちろん鉄道車両や、現時点で本研究室のある堺市では、特殊な性能が必要な農業機械※5や、一般向けでありながら効率が追求される自転車※5などのメーカーが今もトップクラスの製品を世界に輸出しています。

※1 トヨタから始まったカンバン方式と改善活動のように、大量生産は活気のあるメーカーの条件でした。特に自動車産業は、まず国内需要、そのあとで輸出を開始します。今でも総合的な自動車の価値はようやく欧米に肩を並べたところ、だと思いますが、故障率の低さと機械性能の価格妥当性では高品質という評価を得て、大衆車としては一定の評価を得るに至っているようです。
※2 船舶は、多量の商品を長距離で輸送する場合、運送コストを削減するだけではなく、今のような気象情報もない大洋の真ん中、とりわけ荒れるインド洋を耐えなければならない、など、流体工学的にも構造工学的にももちろん内燃機関の信頼性でなどでも、技術的にた製品とは異なる技術が必要でした。戦後5年で解禁になり、第二次世界大戦の技術が活かされたという話もありますが、技術的に欧州に追いついていたわけではなく、運良く、タンカー需要増大とパワープラントの組み合わせ、受注不足で納品が早かった、ことなどが功を奏しただけ、という見解もあります。中期には淘汰を生き残った 三井造船、川崎造船、三菱重工、ほか、三井造船、日本鋼管、石川島播磨、住友重機、など多くの造船会社がありました。いずれにせよ、世界一、世界最大、という響きは当時魅力でした。
※3 損傷許容設計法やその思想は、先端技術として教科書の最終章には記述されていましたが、内容は亀裂進展の基礎的な情報を記した程度で、その実際の使用適用法などは、教科書レベルでは昭和の最後になってもほとんど記載されていませんでした。今でも、品質管理の観点では統計的手法が普及しましたが、現在でも機械設計できっちり紹介している先生は希少なのではないでしょうか。ま、学生さんにそこまでいらないという判断が多いのかもしれませんが、、、
※4 戦後10年を経てようやく解禁になった航空機産業は、技術者流出の中、まずはノックダウン生産(国内生産)と維持整備、そして最初の国家補助プロジェクトの小型ジェット機T -1、中型旅客機 YS-11の開発がされました。その後、ライセンス生産やビジネスジェットの自主開発を行い、今も、国内の航空機産業は、三菱、川崎、スバル(当時は 富士)の主要三社と石川島播磨のエンジンメーカー一社に新明和も加わった5社が中核となり担っています。純民間産業として成り立つかどうかが課題かもしれません。
※5 農業機械は、汎用機械で、取り付け装備が交換できるという意味では、大変システマチックにできていると思います。もちろん小型機械では、その機能は限定的ですが、それでもただ移動するのではなく、移動しながら作業を行うという意味で複雑な機械です。現在では自動化、ロボット化が進んでいますが、自動化されても、動力源が電動化される様子は現時点ではほとんどありません。大変、機械、機械した機械のひとつです。

なぜ、輸送機械は機械の花形だったのでしょうか。 昭和の時代、その初期から中期には、制御といえば機械制御しかなく、電子機器であるコンピューター、今の組み込みコンピューターと同等の性能の機器ですら存在しないか、とても大きな装置だった時代です。今はあふれている電気機械、すなわち家電ですら、当時はまだ、普及途上でした。あの新幹線の運行制御システムにも、今のようなコンピューターがあったわけではありません※6。なんでもかんでも機械でできていた時代。電気冷蔵庫がなく、氷屋さんがリアカーを引いて歩いていた夏の風景※7を今の時代、想像できるでしょうか。

※6 当初の新幹線管理システムは、大袈裟に言ってしまえば、指令所にある電光表示板に、車両の位置や信号機着替えポイントなどの様子が表示された集中管理をしているだけで、出された指令は、現場にいる作業員が全て人力で操作していた、というものです。時代からいえば、鉄道の運行に戦時中の戦艦の艦橋のような機能を実現したもので、それでも当時としては活気的なシステムでした。
※7 そもそも、その状況とその風景が何を表しているのかを、どの程度具体的に、想像できているのでしょうか。

 そんな時代に、大型船や航空機のような輸送機械製造業が花形産業、ということは想像していただけるでしょうか。かなり家電化した自動車は微妙になってしまいましたが、これらの産業は、家電などとは違い、今でも機械が担う責任の割合は比較的大きい産業です。ま、わたしもこの雰囲気に乗った口で、まずは無理、と思われた製品の担当事業所で、しかもその設計部門に配属されたことは大変驚いたものでした。

 ここでは、流体工学ということを踏まえて、翼を装備した機械、を話題に、それにまつわるお話をしてみたいと思います。

 機械工学と、各種力学に関する知識を活用した機械の企画、開発、設計、製造を意識した観点で、”まだ何者になるか未だ分からない人々“ への、本来、機械工学を学ぶということは何か、という疑問誘導とその答えへのヒントになれば幸いです。

 具体的には、少しは関わりのある、航空機とレジャー機器について、そのパーツにまつわる 2、3の話を、害のないと思われる範囲でしてみる予定です。

 あまり期待しないでお待ちいただければ幸いです。

 

[メモ]
MIL-STD-5
主構造要素/強度メンバ/
信頼性設計/信頼性材料
安全係数
損傷許容設計/マルチパス/フェールセイフ
損傷許容設計の実際/亀裂進展計算/荷重パターン
管理部品
機体構造管理計画(ASIP)だったHUMS
クラック/疲労/脆性破壊/マルチサイトクラック
O-ringの規格は大事
受け入れ品証は大事
メンテナンスは大事(ツールホールは規則にしたがって)
作業環境は大事
製品によって文化が違う/インチアップは慎重に
強度計算の想定ケース(乱暴なご使用はほどほどに)