技術情報
category
覆水盆に還らず と 除去加工
紀元前のお話。
中国の優秀な軍師でのちの斉国国王になった伝説の人が、日々、本を読んで過ごしていたら、奥さんが愛想を尽かして離縁してしまった。でも、のちに国王になったときに、謝ってきたときにのエピソード。
盆(ボウル)に入れた水をひっくり返して元に戻してみよ、と言った、あのお話です。
やってしまったら元に戻らない。
それは金属加工では、除去加工。
なぜ金属加工か。
それはかつての機械工学では、使用素材は金属が当たり前だったからです。でも今は、樹脂製品が多勢を占め、それ以外の新素材も出てきているようです。でもまぁ、それらにも金属加工法の技術は使われているわけで、金属加工について学ぶ機械工学の科目は、きちんと大局を見る目を持った優秀な学生さんには無駄にはならないはずです。
かつては金属加工だけ勉強しておけばよかったけど、今は素材の多様性を考慮する必要がある、ってだけです。学ぶことの本質は、目先に惑わされたり、通過儀礼で済ましたとしても、提供したものの効果はなんら昔と変わりません。
主要金属加工がいくつかに分類されていることは機械工学の基本として既に習っていることでしょう。
その一つの除去加工。
これも実習で、旋盤やNC加工、放電加工などで実地体験も受けるはず。もはや放電加工が特別な加工、という時代でもないので、普通に除去加工でも良いのかもしれませんが、切削ではない別のジャンル、という感覚でしょうか。
除去加工は、かつての日本人は子供の頃からなんらかの形で触れて、経験したことがあることでした。あるとき、NHK教育放送の中で、背の高いお兄さんの20年続いた工作を扱う番組からハサミが消えたとき、セロテープのみで工作を始めたときに、きっと日本の未来が変わったのかもしれません。
日本の居間が小洒落たリビングに変わったとき、状況の危機度を表す新法が制定されました。ということは、もうダメだと国が認めたことの現れでもあったわけです。そうそれが、1999年のものづくり基盤技術振興基本法です。
それから20年、根幹に触れず焼け石に水をかけ続けた結果がいよいよ顕在化して、新型コロナパンデミック前には、すっかり観光国家に転向、ものづくり補助金の内容まで様変わりしていました。
まぁ、それは後に置いておいて。
たとえば旋盤加工は、サイズに向けて、サイズ公差内になるように、一般には丸棒を削り込んでいきます。経験がなくても、人生の経験や、ちょっと科学的論理思考をすれば、最も慎重に気を使うのは最終段階であるとわかります。
しかしよくある初心者のミスは、概ね以下のようなプロセスです。
サイズ公差範囲に遥かに遠い削り出しにおいて、おっかなびっくり、少しずつ削り始めます。まだまだ数ミリ削れるのに、サブミリで切り込みます。
中盤、ちょっと余裕と調子が出てきたのか、切り込み量が増えて、明確に旋盤らしく作業効率が上がっていきます。
そして終盤、効率的な作業の勢いのまま、サイズ公差範囲を超えて切り込みます。
ちょっと削りすぎたんですけど、これでもいけますか?
もはやそのやる気のなさが、醜悪なオーラとなって漂っています。
そんなもん、聞くまでもなく、図面に書いてあるとおり。図面指示に沿ってなければその製品は、没。聞いてることの愚かしさもまた、機械工学の新しい変化の一つですね。
覆水盆に返らず。
削った切り粉は製品には融合しません。
すぎたるは及ばざるが如し、っていう言い方もありましたね。
かの英雄の奥さんは、英雄のこの一言で悟った、という意味では賢かったようです。そもそもそれが何の意義があるのか、何に関連しているのか、関連していることの認知も危うかったりします。げんだいにほんでは、交渉が始まりそうです。
最初の慎重さこそが、終盤の仕上がりの時期にこそ重要。
うーん、なんか日本のコロナ対策って、初心者の旋盤工作にも通づるところがありますね。
さて、本大学は、科学的な単純な分析でも大感染の事実が分かる中、1年ぶりの本格対面授業を開始です。
感染対策に、国際的大学として自負を持って、科学の頂、先端学術研究を目指す大学として、当然のように世界的厄災にも挑みます。旋盤初心者と同様、なんて、政治家のみなさんとは一線を画して絶対そんな無策ではありません。優秀な研究者の頂点である、大学、そして法人の首脳陣が、2021年度前期、あえてこの状況下に満を持して、再開します。
学生の皆さん、安心して受講してください。
なお、通勤時の防疫まではさすがに管理できませんので、一コマめのみ、リモート実施となるようです。
詳細は教育推進本部長まで。