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機械設計製図の世界で・・・ 「二次元図面」ってなんですか? ~ 「三次元図面」も学ぼう!

2019年、令和の9月は半ば過ぎになっても、30度を優に超える陽気です。

台風の危険半円が近接距離で通過した千葉県では、一週間後の今でも被害状況すらわからない状態だそうです。昨年のオオサカ台風の南風の恐怖が過ぎります。千葉県を中心とする災害では、残念ながら、政府も自治体も「こんなに大被害だった」ことを把握しきれていないので、未だ支援を講じる具体的で効果的な施策は被害に相応な規模では実施されていないようです。報道も、そんな自治体に被害を電話で確認しただけだったようで、そういう意味では誤認させるような報道姿勢だったことは否めないようです。物事を正確に伝える言葉は、ウソをつくつもりでなくっても正確でなく間違っていれば、世の中に大きな混乱を招くものですね。

もう一つ余談ですが、最近の若くて優秀な学生さんたちは、新しい造語創作能力にも長けています。新しい用語や、従来の用語に新しい意味を付加したりすることが得意です。時代について行けない老人にとっては、彼らのレポートや文章を正しく読むことももはや困難になってきました。留学生のレポートの方が読みやすいです。

 

というわけで、今回は 「2次元図面」。

本課程の教育においてでも、一部のネット上記事や、3Dデーター対応のみならず、3次元データー用図面に未対応のメーカーの説明においてでも、この用語は散見されます。

本過程の機械設計製図演習を履修した学生さんならば、一度ならずも聞いたことがあるかもしれません。みなさんの教育の質を保証するシラバスにも、そういう記述が記されていることと思います。

「二次元図面」ということばはまことしやかに使用されて世に普及しつつあるようです。普及してしまえばもはやそれは常識です。

個人的には、常識ほど怪しく危ないものはないとは思うのですが、科学を捨てた日本においては常識という名の慣習、前例、他の人と同じであること、などは、科学や論理性を疎く思い、感情や気持ちが重視される崩壊しつつある日本社会で生きていくにはたいへん重要です。

 でも、冷静に考えれば、普通に合理的な思考能力を日々発揮してお勉強やお仕事をされている人ならば、この用語のおかしなところが簡単に想像できそうです。「2次元図面」。この「図面」にかかった修飾語「2次元」とは一体何を表しているのでしょうか。「2次元であることを強調しているのですから、きっと「2次元」ではない図面が世の中に存在していると言うことでしょう。学生のみなさんは、本課程の授業で当然そのような「3次元図面」を学んでいるのでしょう。最先端で高度な教育を提供する我が課程スタッフは、きっと新しい「図面」方式を既に秘密裏に開発しているのかもしれません。

ちなみに、JIS の「製図一製図用語」では、以下のように記載されています。

製図 :
図面を作成する行為。 drawing

図面 technical drawing :
情報媒体,規則に従って図又は線図(4109 参照)で表した,そして多くの場合には尺度に従って描いた技術情報。備考  この用語を複合語として用いる場合は,省略形で単に〜図とすることが多い。

投影法 projection method :
三次元の対象物を二次元画像に変換するために用いる規則。投影中心法又は投影平面法を前提としている。

これらから思うに、「図面」は一般的に見取り図などでさえ「投影法」を用いて作成されます。投影法は三次元物体を二次元表現するもの、とありますので、「図面」は端から二次元のものです。そもそも線図であればそれは二次元の様相が強いです。そんな「図面」にわざわざ「二次元」というような修飾語を点けるのは、二重修飾になるので、冗長で非合理的です。

そもそも、こんな用語が生まれたのは、3次元CAD を導入したからではないしょうか。もしそうであれば、それらの作業(「製図」)と出力はそれぞれ、「3Dデーターを作成するための3次元モデリング」と「図面」です。作業であモデリング(製図)と出力である「図面」を同列に扱って「二次元図面」なんていう隠語が発生したのではないかと憶測します。

「図面」は「投影法」を用いる限り二次元であるのは当然で、しかも紙面(やディスプレイ上)には二次元でしか表現できないものです。

世に言う「三次元」的なグラフや見取り図は、正式には、あくまでも斜投影法などの投影法を用いた「図面」のはずです。ツールである CAD は製図という行動に関係するもので、3D-CAD ではない従前のCADを ”2D-CAD” や “2.5D-CAD” と呼ぶのは納得がいきますが、「3D-CAD」メーカーや関連組織等の中にも「2D図面」という用語を記述しているところはあります。

ということは、トヨタ自動車やパナソニックのような先端企業では、ホログラム等の技術で三次元に映し出される「図面」があるのでしょうか。

でも、そんな図面って、そもそも「図面」の趣旨から完全に逸脱していて見にくそうなので私はイヤですが・・・

というわけで、「2D図面」や「二次元図面」という用語は、(3Dや三次元の付いた図面を呼ぶ用語と同様に)とっても気持ち悪い用語だと思います。

「図面から3Dモデルを作成する」
「3Dデーターを図面に落とす」
「図面を基に3Dモデルを起こす」

などなどは理解可能です。

 

さて最後に。

ここまでさんざんえらそうにいっておきながら、三次元図面が存在するとうかがえる権威ある証拠の一つを示します。それはすなわち「2次元図面」という表記の正当性を示しています。

日本の代表産業とよく引き合いにされる権威ある自動車業界のJAMA(日本自動車協会)において、産業にかかる標準化活動のなかで「3D図面の標準化に関わる活動」と称して3D図面(三次元図面)の標準化をアピールしています。一体どんな図面なのか見てみたいものですが、私が仕事をしている間には、つまり私が生きている内にはお目にかかれそうにはありません。

世界に挑戦する日本自動車産業なので、これらの英語表記も記載されているのですが、よく見るとそこには、たとえば「JAMA/JAPIA 3D drawing guidelines
– Guidelines for Combining 3D Models and 2D CAD Documentation – V1.1
」のような表記があります。いったいこれがどうして「3D図面」になるのかは全くの怪です。もちろん JIS の用語集が1999年にアップデートされて既に20年が過ぎていますので、その間に技術進化があったのだと思います。日本のトップ業界の最先端の技術にはついて行けないと、あらためて我が身の情けなさを実感しました。でも、しつこいですが、この「3D図面」はどう考えても「等角投影図面製図法」のような気がしますし、そもそもISOでは「3D図面」という「図面」ではなく、「数値化された製品データーあるいは MBD(Model Based  Definition) 」を扱っているようにも思うのですが。「3D図面」は、用語的には隠語的でJISと矛盾して誤解や遺恨を招きそうで、昔ながらの「等角投影法(軸測投影法)」で書かれた図面が「3D(立体)図面」だ、なんて言う名称は、やっぱり個人的にはイヤです。真意は 3D モデル用の図面、なのでしょう? 3Dデーターのアノテーションに関する規格作成なのでしょう?ま、投影法ではないもっと特殊な描画方法なのかもしれませんがそれでも・・・・

 

本法人の予算では、そんな高度な図面教育環境を提供することはかなわないと思われます。したがって、みなさんも次世代を担う機械設計者を目指すのならば、自らの力でいち早く「3D図面」を習得しておく方が良さそうです。

三次元図面も学ぼう!

健闘を祈ります。

ちなみに、みなさんが演習で使用している PTC の CAD アプリケーションは、世界で初めて MBD を導入したアプリです。このアプリで MBD を学べば、先進国で活躍できる機械設計者になれるということです。そんな高機能なアプリを使って実施される本課程の機械設計製図演習の、何と先進的なことでしょう!とっかかりは、JAMAが貢献した気色悪い ”二次元図面” がローカル定義されている  JIS B-0060 ※1  あたりからはじめて見てください。
# 「3D正(式)」も、個人的には「3D(データ)制(式)」にしてほしい気持ちです。

 

※1 なぁんだ、JISに定義されてるというなら公に認められてる用語じゃないか。だったら堂々と使ってもいいんじゃないか。・・・と思われた方、もう一度工学にかかわる前に、科学の基本から学ぶほうがよいかもしれません。とりあえずは基本の基本、上述のように原典に当たってください。それを読んで、熟考してもわからなかったら、まずは頼るべき友人、それでもだめなときには授業担当者や指導教員に指導をうけるとよいと思います。