機械工学
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マジックカーペットとフローティングシステム
ついに暑い夏がやってきました。昨日、大阪の風物詩のひとつである天神祭も無事終了したようです。今年は長い梅雨のおかげで、暑い夏のスタートが遅れ、夏は七月末、天神祭りとともにやってきました。おかげで体力が減退しつつある私のような老人には、大変助かりました。もちろん、たとえばおそらく海水浴場の海の家は経営上大変苦境にあると思われますが、それは機械工学の人材の現状と同様、今の時代のトレンドの影響も重なっているので、恨みつらみを言うだけで、根本解決は難しいでしょう。農業も、前半冷夏の影響があるかもしれません。、結局は対応できる大資本が勝ち、いち早く対応できない場合には、特徴があり、かつ、世間に認められたもの一部の農家以外は、やがて本学の大きなプロジェクトのひとつである植物工場に淘汰されてしまうということです。それが科学の進歩であることは、どんなに愚痴っても、歴史が正しいと受け入れています。
そんな世間の状況で、相も変わらずクラシカルな本研究室の扱うフローティングシステムは、物体が流体圧力により動くものを扱っています。 学生の皆さんには授業中に重ね重ねお伝えしているつもりですが、最先端を扱う優秀な教授の先生方はさておき、本研究室では、結局は、最新量子力学も相対性理論も高速現象も無視して、古典的ニュートン力学の三法則と保存則程度しか扱いません。
さて、風の恋しい季節です、いろんな意味で。台風だって接し方によっては、たとえ世間がどう言おうと、お友達になれます。そんな風も、屋内外でいろんな現象を引き起こします。フローティングシステムを扱うものにとっては、災害すら、知識を得る対象です。日本における常識はよくわからないところが多いですが、世界は科学の時代ですから。
屋内でも、そんな風、つまり圧力は形を変えて、作用反作用をもとに様々なものに力を伝えます。時には、密閉性の低い個室で人外生物のうめき声のような不気味な音をたてたりもします。あるいは、科学的には自然でも、科学を理解しない人にとっては超自然現象やオカルト的現象と受け取られてしまうような現象を引き起こします。
さてさて、マジックカーペット。一般には、それに乗って空を飛んで移動するために使用されるそうです。マジックカーペットに乗る,といえば、バブルも崩壊後の1990年代、Pizzicato Five というグループが、Magic Carpet Ride という曲を歌っていたのを思い出します。ま、そんなことはさておき、例えば平面に置かれたそこそこ張りのある柔らかい布地、カーペット。そんなカーペットも条件が整えば日本では心霊現象と受け取られるような挙動を示します。
カーペットに吹き込む床面に沿ったスリットからの噴流は、カーペット先端に力を及ぼします。フローティングシステムです。そのシチュエーションは、換気のために窓を開けたり、換気扇のような圧力が伝わる開口部があるトイレのような個室、が候補のひとつです。一般に、科学を理解しない工事会社が施工していない限りは、空気が通る通り道がドア周りにも空いているのが当然です。質量保存則です。そんな隙間がドアの下にあり、シート状の噴流が吹き出した場合、一体何が起こるのでしょう。
程よく厚みのあるカーペット先端に当たった噴流は、まずは上向きに流れを変えて、一旦渦を伴い剥離するかもしれません。その外側には翼前縁のように加速した流れ。そうすると、カーペットの先端が負圧によって持ち上がります。先端に隙間ができると、たちまち噴流はカーペットの下に入り込みます。体積がゼロになる程空気が押し付けられない限り、質量保存にしたがって、空気はカーペット下面を通り抜けようとして、順次、カーペットを持ち上げます。カーペット先端部付近では、一旦引き込んだ勢いが収まると、また床に落ちようとします。そう、勢いよく持ち上げた後の反動、重力加速度によって落ちてくる運動の法則です。開口部が大きくなれば、噴流によって高まった圧力も逃げてしまうので、自重を支えることもできません。
こうした流体とカーペットの動作が科学を信じない人にはどのように見えるのでしょうか? そう!マジックカーペットです! 昔のアメリカンアニメに出てくるアラビアンナイトの空飛ぶ絨毯の動きは、意外とこんな現象を見た人のインスピレーションによって発想され描かれたのかもしれませんね。
ちなみに、再現しようとして扇風機を使っても多分無理です。スリット噴流の流れの質をきちんと再現しないといけません。一体どういうときにそのような現象が起こっているかをしっかり観察、記録して、それらに推論を立ててその推論を検証する、そして考察、実証する。それが欧米の科学教育です。日本では明確には実施されていない教育です。認知できない人には認識できない。認知する対象を増やすために勉強をするわけです。だからその原動力としての好奇心が重要なのです。
めんどくせー、
って思うのは仕方がありません。全く普通です。それが現代の標準的日本人らしさです。普通の反応です。二頭身のかわいい女の子が怒るように、何とぼーっと生きている日本人の多いことか、です。 機械工学には、座学ではない勉強が重要と思います。でも、昔のようにそれらが日常にあった時代でなくなった現代日本。機械工学の衰退は誰がどうやって食い止めるのか。いや、ソフトランディングで手仕舞いするのがひょっとすると日本国民の総意なのかもしれません。そうでなければ、日本人みんなが勉強し、共にそれを人生や社会に生かしているはずですから。
あなたは機械工学を学びますか?
蛇足
近年の密閉性の高い住宅では、どうもこのような現象がよく起きているようですね。一様な噴流ができやすい条件として、別の部屋で排気換気を行ったときなどに、トイレのように換気扇のようなカットアウトのある部屋から空気が吹き込んで、充分なすきまを確保していないトイレの場合では、狭いトイレのドアの下のすきまから、トイレ前に置いたカーペットへシート噴流が吹き付けて、波打つ。どうもそんなところのようでです。質量保存則、そう、連続の式、です。
前述のように、建築設計のバランスに問題があります。
トイレの換気に必要な充分の面積を持つ空気取り入れ口が開いていない。
だから噴流の速度が大きくなって、カーペットが暴れ出すわけです。
それなりの開口部が確保されていれば、ドアの下からトイレの汚い空気が室内に流れ出し、しかも、カーペットをばたばたと揺すってほこりを立てる、という、なんとなく衛生面に問題がありそうな現象は起きることはなさそうです。たとえトイレから空気が流入しても、開口部の面積が十分確保されていれば、穏やかに流れ込むので衛生的には少しましになるでしょう。きっとそこのトイレの換気扇は、ブーン、とうるさいことでしょう。
トイレが衛生面で特別な場所と思うのであれば、ワンウェイシャッター付の排気口
トイレからの臭気や細菌、ばい菌が建物内に流入し、建物内を縦走するような事態がとっても気になって、それを防ぎたいのであれば、そもそも、トイレの換気経路にはしっかりとしたワンウェイの換気とびらを、設置状態の確認も含めてきっちり動作するように設置しておくべきです。そうすれば、シャッターによる損失を十分大きく確保できていれば、空気はトイレ以外の他から流入してくれるはずです。
家の建築設計の流体工学的設計に欠陥がある
そもそもは、トイレからの流量を抑えるように、つまりトイレなんかから空気を取り入れることのないように、建物としての必要な空気流入口を確保していない設計が原因のひとつです。建物内の設備動作時の状況がイメージできていないと言うことです。何にも考えずに、たとえばキッチンに大きな風量の換気扇を設置して使用すれば、そこから排出する場合の空気の流れを、細やかに考えないまでも、ちょっとイメージすれば防げたはずです。そもそも、密閉状態で換気扇を動作させれば、そのファン特性を考えても、換気流量の低下、消費電力の増加、騒音の増大、が発生しているはずです。ドアがバタンと開いたり閉まったり、エアコンの効いた部屋に、予想外の冷気や暖気が流入したり、してませんか。せっかくの省エネエアコンも値打ちがありません。
というわけで、キッチンで換気扇を点けたら、トイレからいろんなものがいえのあちこちを通り抜けて、キッチンまで飛んできて、最終的に調理している食材の上にあるキッチンの換気扇から排出される、という状況は、ちょっと微妙な気もします。。。。
なお、だからといってどこかの窓を開けるときも、流体工学的な配慮をしてくださいね.換気効率効果、電気代にも影響しますから。