技術情報

category

ドラッグシュートに思う

世の中にはいろんな機械がありますが、機械系として魅力的なものの一つは、今でも輸送機械ではないかと個人的には思います。

本学に入学する機械系の学生さんで、本課程を選ぶ学生さんには、最近は輸送機械を製造する仕事に就きたい、という人はほとんどいなくなったようにもおいます。もちろん、電気自動車に関心があったり、F1レースに関心があったりする人はまれにいるようですが、機械工学的な観点が少ないように思います。

ちなみに、電気自動車の動力源であるモーターや電池システムは、基本的には電気電子工学や制御工学の機械だと思うので、勘違いして入ってきている学生さんも少ない中に少なからずいるのではないかと思われて仕方がありません。今や機械は、動力源ではなくって、構造・強度や機械・機構や製造技術や機械運動(乗り心地)、などが守備範囲なのかもしれません。

疑念を持ち出すと止まるところはありませんが、疑念からいろいろ調べれば少しは何かが見えてきます。もちろん、調べたからといって解決するとは限らないことは多いですし、そんな中に、意外にルーツには疑問符がつくこともあります。

 

さて、ドラッグシュート。

本研究室が担当する機械工学実験の説明の中に、いわゆるドラッグシュートが出てきます。もちろん、揚力と抗力の説明の中の抗力を工学利用した代表例のひとつです。

ところがこのドラッグシュート、英文では、Drag chute と記載されるのですが、語句を見ると結構意味不明に思えてきました。みなさんはあんまり気にならないのでしょうか。

もちろん航空宇宙関係の文献にもこの表記はありますので、もはや工学用語としては何にも問題はないので、何をそんなに気にしてるんだ、といわれてしまいそうです。

でも、気になります。

気になったものは仕方がないです。drag は抗力でいいけど、そもそも chute って何だ?という感じです。 よく似た shute はダストシュートの shute、捨て口です。shoot? それは shot でサッカーです。

c で始まる chute も、たしかに少しイメージは重なるようにも思うのですが、急坂、急流、の意味です。抗力の急流? 日本語で「ドンとブレーキをかける」というとなんとなく「どぉーっと流れ込むような抗力の急流」感が漂ってよさげには聞こえます。でも抗力の急流、とはなかなか情景的な表現です。

そうやって考えていくと、ドラッグシュートのシュートはパラシュートのシュート。そもそもパラシュートが何かも気になってきます。

parachute

英語辞書では para はもはやパラシュートの略語として定着していたり、異常な、側の、保護する、などの意味があるそうです。

parachute :保護する急流、側の急坂、、、

外国語の語源ってそんなものなんでしょう。。。。^^;

 

いわゆるパラシュートは、中国人が紀元前に発案していた記録があるそうです。俗に言う超ドメスティックバイオレンスな皇帝の息子が、父親から逃げ出すために竹傘(竹帽子)二つを持って窓から飛び降りて脱出に成功したとか。さすが中国、4000年前にもう丈夫な傘を使用していたんですね。

その後の記録は、いつものようにレオナルド ダ ビンチです。このころ、イタリアにはパラシュートらしき絵が作者不明で描かれましたが、その後、ダビンチも、よりリアリティあるデザインを残したそうです。それ以降、いろんなパラシュートもどきの開発は行われたようです。

現代のパラシュートの原型は、1883年にフランスで Louis Sébastien Lenormand によって発明されたものだそうです。そして彼が造語で parachute と命名したそうです。しかしこの para は英語でもフランス語でもなく、イタリア語の「逆、反対、抗う」を表す命令形らしいです。そして chute は「落ちる」という意味です。

「落ちることに抗え!」

おぉ、腑に落ちます。

じゃぁ、ドラッグシュートは?「抗力が落っこちる」??

ま。できあがった単語二つを適当にくっつけたって事でしょうか。
^o^;

パラシュートの意味を最近は後ろにつけるときは、「シュート」っていうみたいな風潮が蔓延しつつあるようです。スピンシュート、とか。英語では spin-recovery parachute です。せめて スピンパラ にして欲しい気持ちです。

さて、飛行機が飛んだり、高いところから飛び降りたりするヒトも昔から結構いたようですが、人類は昔から結構舟を利用していました。日本でも、元寇や、遣唐使、などなど、結構な嵐の中を無謀に航海してたりしました。

普通の人は、まぁ滅多に波のある海面で舟に乗ったりしないのでしょうが、舟で波を越えると、その前後では速度的に大きな変化を体験できます。波を乗り越えるときは、やはり坂を上るわけですから、場合によっては後退すらしてしまします。逆に、波のピークから先、下るときは、思いの外加速したりもします。いわゆる波乗り、サーフィング、ですね。これは、津波はもちろんですが、荒天中の船舶の安定性の問題として、造船工学では古くから扱われていました。

こういう状況で船舶を安定させるために、たらし、シーアンカー、なんかが使われます。これらは、水の抵抗を利用するために、物体を水中に落として舟で引きずるわけです。船尾から垂らせば、船尾が後方に引っ張られるため、舟の向きが安定します。海洋レジャーでも、蛇(方向安定フィン、スケッグ)を喪失した際の緊急対応では定石です。

このようなものは ドローグ(drogue) と呼ばれています。これらも、船、宇宙機、航空機、にも使われていて drogue parachute と呼ばれてます。

、、、あれ?

ドラッグシュート、ドローグパラシュート。

なんか似ていますね。ま、きっと偶然でしょう。

ちなみに、このドローグパラシュートの発明は、1912年にロシアの Gleb Kotelnikov によってなされています。 自動車で街中?を最大速度で走って展開、その効果を示したそうです。航空機には、同じくロシアで、1937年に流氷上に着陸するために使用されたのが最初だったようです。ドローグパラシュート、は意味は納得できます。

うーん、でも、発明者はロシア人なのに ドローグ パラシュート、って言ってたんでしょうか?

 

ドラッグシュートはきちんとした工学用語です。