機械工学

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「ものづくり」なんて嫌いだ

「ものづくり」なんて嫌いだ!

「ものづくり」ということばは、「ものづくり基盤技術振興基本法(1999で、「飛鳥時代」以前に畿内で主流だったやまと言葉から、外来語を翻訳した“製造業”などではなく、そのほっこりはんなりした雰囲気、音感から日本固有の技術が感じられる※1、とかいう理由で採用したという経済産業省関係資料が政府関連webサイトにあったように思います。

さすが優秀な中央省庁の官僚のその意図は大当たりし、その後、21世紀前半の日本には「ものづくり」という言葉が広く普及しました。

法令では、「ものづくり」という言葉の定義は単独では多分で出てきていません。基本法で定義されている用語は、製造業の発展を支える「ものづくり基盤技術」をコアに、これを主に利用する工業的な「ものづくり基盤産業」すなわち「製造業等」で、これを行う事業者が「ものづくり事業者」とされています。その後、ものづくり〇〇などの施設が作られ、「ものづくり」という言葉が定義のないまま、現代日本らしく意味は各人のイメージで無制限拡張可能な単語として一人歩きします。公文書にもよくわからないものづくり関連用語が多用されています。さらに、ものづくりは、商業等のサービスなどにも拡大され※2、官僚の意図通り、大変ほっこりはんなりほんわりした解釈万能の言葉にきちんと成長し、普及しました。

本基本法制定後、日本には、東日本大震災をはじめ、多くの風水害も発生し、地方自治体の予算不足から、ボランティア利用の事業、施策が増加、定着し、企業にも、自社事業による社会への貢献とは別に、社会貢献が浸透しました。一般社会でも、社会貢献や優しさを意味する「きずな」という言葉も定着しました。コミック ONE PIECE※3 の記録的頒布にも見られるように、仲間や助け合いの習慣、文化が若い人に浸透する一方、多様化も進行したようです。SNSの普及と相まって、「きずな」を重視しているようで絆が細く、承認願望が社会貢献とつながっているような雰囲気も感じます。

途中ですが念のため。

このトピックスでは、「ものづくり」という言葉とその影響が嫌いだ、というもので、ものづくり基盤技術振興基本法や、それに伴う事業、新語としてのきずなの精神や仲間やコミック ONE PIECE(あくまでも象徴的な一例) などを批判、否定しているわけではありません。

さて、「ものづくり」という言葉に関する政策施策には、ものづくり基盤産業に理学研究所及び工学研究所(それぞれ工業の科学技術に関する研究開発を行うものに限る。)も列挙され、高等教育にもその内容は別として施策が実施されています。そういうこともあってか、大学でも、大学のパンフレットをはじめ、曖昧で独り歩きしはじめた定義のない“いい感じ”の「ものづくり」という言葉があふれています。

前述の社会現象も影響しているのか、機械系に入学する学生さんには、機械に興味がないか、そのことに気づいていない学生が多勢を占めているように感じます(本人が「関心がある」といっていても、それに関してなんにも知らないです)。ましてや彼らは、機械系技術者が機械設計業務を担っていると認識していないか、認識していても「それをやるのは自分ではない」、と考えています。そしてよくある目標は、「ものづくりで〇〇に関する仕事をして社会に貢献したい」です。私個人的には、NGフレーズです。情報戦検閲活動的にはフラグが立ちます。機械工学を学ぶ場の見地として、その理由は、このフレーズを用いる人の最終目的が “社会貢献すること” だからです。それは確かに重要で機械工学技術者が所属する企業体の重要な効果ですが、機械工学技術者でなくてもできることであり、おそらく企画会社や経営者、あるいは販売、運用会社や官僚、官庁などの社会学的な組織でより効率的に達成できるものです。このような学生にインタビューすると、大抵はそのような目的を達成するたねぼ機械を具体的に例示できません。そのことを訊ねるまで、機械について考えたことがほとんどありません。さらに聞くと、その思考は社会学的であるという印象を受けます。絶対に設計という言葉は出てこず、企画したい、携わりたい、というニュアンスで話をします。せめて「〇〇の分野で△△を利用して社会貢献できる機械を実現したい」って言ってほしいですね。なにがちがうのか?少しは具体的な仕組みを意識した機械とその製造を意識していることが確認できるところが違います。

とにかく、

中央官庁の意図した『「ものづくり」に関心のある国民』が着実に増加しています。

多分、今後、論理的な思考能力を育てる教育が実施されても、それは現状ではもはや製造業維持に大きく寄与することはないでしょう。論理的な思考は、数学、理科に関係しますが直結しません。数学、理科は、機械工学や製造業に関係しますが直結しません。製造業に関心を持つためには、もの(その対象はものづくり基盤技術の定義と同様)に対する関心が必須です。さらに諄く言えば、鉄道ではなく車両。F1やオートレースではなく、レース車体やサスペンション、エンジン。ゲームではなくソフトウエア言語やアルゴリズム。照明ではなく発光素子。医療ではなく薬品、化学物質、治療器具。エネルギーではなく、発電素子、タービン、増速器です。いまの彼らのゴールは、拡大膨張した「ものづくり」の中の企画、運営、サービス分野です。設計、製造は外注です。これが日本国民に十分波及すれば、外注先は、地理的に韓国、台湾、中国です。製造以外の国内保守産業をささえるのは、スパナも触ったことのない日本国民ではなく期待の移民です。日本から製造業がなくなれば、日本国民はAIの出す指針をさらに合理的に判断できるより高度で付加価値の高い高給職につくか、職にあぶれるか、の選択かもしれません。

「ものづくり」なんて嫌いだ!

 

「ものづくり」ではなく「製造業」。あと数年は、せめて意識してこの言葉の使い分けをしておきたいと思います。この後数十年、今世紀中には日本における機械工学という言葉は廃語になるのでしょうか。

え、製造業?誰がそんな仕事するの?海外発注でしょう。

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【参考】ものづくり基盤技術振興基本法前文
 ものづくり基盤技術は、我が国の基幹的な産業である製造業の発展を支えることにより、生産の拡大、貿易の振興、新産業の創出、雇用の増大等国民経済のあらゆる領域に わたりその発展に寄与するとともに、国民生活の向上に貢献してきた。また、ものづく り基盤技術に係る業務に従事する労働者は、このようなものづくり基盤技術の担い手と して、その水準の維持及び向上のために重要な役割を果たしてきた。 我らは、このようなものづくり基盤技術及びこれに係る業務に従事する労働者の果た す経済的社会的役割が、国の存立基盤を形成する重要な要素として、今後においても変わることのないことを確信する。 しかるに、近時、就業構造の変化、海外の地域における工業化の進展等による競争条件の変化その他の経済の多様かつ構造的な変化による影響を受け、国内総生産に占める 製造業の割合が低下し、その衰退が懸念されるとともに、ものづくり基盤技術の継承が 困難になりつつある。このような事態に対処して、我が国の国民経済が国の基幹的な産業である製造業の発展を通じて今後とも健全に発展していくためには、ものづくり基盤技術に関する能力を尊重する社会的気運を醸成しつつ、ものづくり基盤技術の積極的な振興を図ることが不可欠である。ここに、ものづくり基盤技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。
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※1 日本独自で世界に広く認められた一般工業製品の歴史はほんの60年前後です。戦前は材料や軽工業品、原動機は第二次戦中にイギリスやドイツ技術を参考に世界レベルへと進化したものの、戦後はしばらく制限を受けていました。先進的な民需品世界に認められ始めたのは、このたった30年間ほどです。1960年代には、******** ****** ********。家電も輸出され、在阪大手家電会社が国外向けのブランド名を設定したのもそれがきっかけでしょう。アンギラスが襲った大阪万博の頃ですら、日本人はアメリカ製に憧れていました。バブルの始まる1980年頃になって、ようやく家電や自動車が日本製というものが世界で認知されはじめました。評価が向上し始めたのはそのあとからです。経産省のいう「ものづくり基盤技術」に陰りが出て、それに関する法律が国によって検討され、立法化、施行されてもはや20年(施行は1999年)です。未だにこの法律による補助事業が継続増大しているということは、技術力の低下が進み、技術継承状況が悪化し続けているということでしょう。2020年に近い現代でも、日本製工業製品が欧米で必ずしもトップ、というわけではありません。主要分野でトップを独占したこともありません。政府もものづくり基盤産業のサービス分野への配分を増加しているような雰囲気は、公然とは言えないが、すでに工業立国から観光立国へと舵を切ったということかもしれません。そう考えれば、日本の技術立国の期間は半世紀ほどだった、ということです。少なくともこの記事を目にして読んだあなたが、機械工学による製造技術に関心がなければ、そしてあなたの周りの知人も同等であれば、それが日本の製造業の実態であり近未来であるということです。ネチズンの批判の強い中国製品、中国技術ですが、その改善速度は、ちょうど40年前の日本のようです。「ものづくり」という言葉によって、そういう近隣国批判をしている人の中にも自ら日本の基盤技術の維持発展をささえようという人たちが多く出てくれば日本の工業製品は安泰です(必要なのはウソップではなくルフィーたちです)。でも、企画、運営、あるいはそれでもなく、第三者であり続ける人が多ければ、日本の近隣諸国他との相対的な工業的地位没落も近いのかもしれません。「新幹線の技術、誇りに思います。ノーベル賞受賞、日本はすごいですね。」は、誰が引き継ぎ、いつまで続くのでしょうか。
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※2 中小企業庁では、「ものづくり(サービス含む)」という表記が定着しています。
 
※3 主人公ルフィーをはじめとする仲間を助けることのできる多くの主要登場人物は、今の日本に一人でも多く登場してほしい能力者です。
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ものづくり基盤技術振興基本法 総則と定義
第一章 総則
(目的) 第一条 この法律は、ものづくり基盤技術が国民経済において果たすべき重要な役割に
かんがみ、近年における経済の多様かつ構造的な変化に適切に対処するため、ものづ くり基盤技術の振興に関する施策の基本となる事項を定め、ものづくり基盤技術の振 興に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、ものづくり基盤技術の水 準の維持及び向上を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「ものづくり基盤技術」とは、工業製品の設計、製造又は修
はん 理に係る技術のうち汎用性を有し、製造業の発展を支えるものとして政令で定めるも
のをいう。 2 この法律において「ものづくり基盤産業」とは、ものづくり基盤技術を主として利用して行う事業が属する業種であって、製造業又は機械修理業、ソフトウェア業、デ ザイン業、機械設計業その他の工業製品の設計、製造若しくは修理と密接に関連する 事業活動を行う業種(次条第一項において「製造業等」という。)に属するものとし て政令で定めるものをいい、「ものづくり事業者」とは、ものづくり基盤産業に属す る事業を行う者をいう。
3 この法律において「ものづくり労働者」とは、ものづくり事業者に雇用される労働 者のうちものづくり基盤技術に係る業務に従事する労働者をいう。
(基本理念) 第三条 ものづくり基盤技術の振興は、ものづくり基盤技術が製造業等に属する事業に
おいて供給される製品又は役務の価値を高める重要な要素であり、そのものづくり基 盤技術はものづくり労働者によって担われていることにかんがみ、ものづくり基盤技 術に関する能力を尊重する社会的気運を醸成しつつ、積極的に行われなければならな い。
2 ものづくり基盤技術の振興に当たっては、ものづくり基盤技術の中心的な担い手で あるものづくり基盤技術に係る業務に必要な技能及びこれに関する知識について習熟 したものづくり労働者(第十三条において「熟練ものづくり労働者」という。)が不 足していることにかんがみ、ものづくり労働者の確保及び資質の向上が図られなけれ ばならない。
3 ものづくり基盤技術の振興に当たっては、ものづくり事業者の大部分が中小企業者 によって占められていることにかんがみ、中小企業者であるものづくり事業者(第十 五条において「中小事業者」という。)の経営基盤の強化及び取引条件に関する不利 の補正が図られなければならない。
4 ものづくり基盤技術の振興に関する施策は、ものづくり事業者、ものづくり労働者 又はこれらに関する団体がする自主的な努力を助長することを旨として講じられるも のとする。