機械工学

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寸法公差と、サイズ、位置の公差とはめあい ~ GPSはもう来てる  その2/3

寸法公差と、サイズ、幾何の公差とはめあい その2

さて、前回では旧JIS、というか合理性を欠いた図面と GPSにそった図面の見た目に現れる違いの一例までお話ししました。それを引き継いで、今回は、簡単な板面上に二次元穴配置を考えます。当然、寸法記入には起点となる基準面(というか基準位置でも可)の選択が必須です。3D CADでお絵かき製図をしていた人は、この時点で再学習を強く推奨します。

材料の面とデータム
データムは、材料上の面ではありません。データムは理論的に正確な基準(面)であるべきです。材料の面ですら、このデータムを基準面としてその形状を公差で指示されるものです。裏返せば、材料の面は基準にならない、ともいえそうです。オブジェクトの位置指定には最低、配置面次元数と同数以上のデータムが必要です。二次元配置とはいえ、穴の垂直度を考えれば、当然必要なデータムも増加しますよね。逆に、穴開け面を一番の基準に指定しておかないとどうなるでしょうか?※1
加工作業では、まず第一基準データムの幾何交差を満たすよう、材料の面を加工する必要があるかもしれません。基準のデータムは穴をあける際の材料の固定順にも影響します。つまり、GPSな図面は、加工者の作業手順まで支配するわけです。この支配こそが、設計者が図面(あるいは図面に本来記されるべきだった情報)をもって製品の幾何特性を仕様化し、マネジメントする、責任を持つ、(しなければならない)ということなのです。加工される材料がどのようなものかも当然図面で指定できます。
実作業で、データムをゲージ等を使い表現するならば、材料はデータムで指定された領域より大きいと不都合です。こういうときの GPS を意識した図面の場合、サイズを指定するときプラス偏差はあまり使いたくないかもしれません。それはASMEに準じた包絡の条件と呼ばれいます。

幾何公差と表面性状
従来の材料で第1基準面を指定すれば、その面を基準にしたことによって生じる誤差があります。その誤差をマネジメントするためには、さらにその面がどうあるべきかを指示しなければなりません。面そのものが曲面になっていた場合、より具体的には凸面曲になっていた場合、平面度に応じた傾きの幾何的な許容が生じます。この誤差を抑えるためには、面の長さ(縦、横)を考慮して平面度を指定することができます。高精度の製品や小さな製品を作る場合には、表面性状も影響しそうです。これらを指定することで、その後の位置寸法の精度が保証できるようになります。

加工者の次の作業
第1の基準面は、普通は材料の工作機械への設置に使われます。まぁ、作業台に置く面や、旋盤などのチャックで掴む面ですね。
加工者は、設置した後にさらに材料の向きを整えます。その時、第二、第三のデータムを使用することになります。ジグ(治具)に面を当てたり、最近では三次元測定器を用いて加工に必要な特徴点を計測し、加工用の幾何データーを適当に変換、修正してマシニングが加工してくれるようです。でも、この面が歪んでいると、ここでも誤差が生じます。したがって、どういうふうに材料をおいて、どの順番でどの面を基準に材料を工作機械に設置するかを把握していることが大変重要になります。もちろん、材料の中から製品をくり抜くように加工できるのでしたら、単純に製品の加工精度だけ指定するだけで済むかもしれませんね。

従来の寸法と位置、公差
さて、穴を開けることを考えましょう。板材の端からの距離を指定しての二次元配置の穴あけの場合なら、基準となるデータムからの2つの距離(位置)が必要です。
さて、なぜこの2つの距離それぞれに公差を指定してはいけないのでしょうか。一般に、公差が気になる穴を開ける場合には、ほぼ100パーセント、相手になる部品が存在します。それは、相手が突起だったり、さらに別の部品に開けられた穴と締結するためのボルトやピンだったりします。このような部品の取り付け作業をしたことがあるでしょうか?本課程では、数学に重点をおいた教育がなされているので、一次元で加算して2軸、3軸を重ね合わせた領域と、現実に二次元、三次元の概念の場合とで、確率による誤差の分布(確率密度関数)を参考にすれば、この二つの手法がどういう関係になっているかがわかりますね※1。さらに、本課程の学生さんは豊かな想像力があるので、こういう穴位置に誤差があった場合、どのような対処が必要かは何が基準になるか、特に経験がなくても理解できることでしょう。従来の位置のパラメーターである距離に公差を指定することは、その結果を考えれば非常に不合理かつ非経済的でした。特に高精度の製品を作成する場合、そのコスト差は大変なものになります。つまり、位置を構成するそれぞれの寸法はあくまでも理論的に正確な寸法(TED)であって、もはや位置には従来の寸法公差は適用されません。公差はTEDによって合成され、指定された地点に本来あるものなのです。誤差は TEDと幾何公差で決まります。もはや寸法の直列寸法記入法や並進寸法記入法で累積誤差が、なんていう話は存在しなくなります。

従来の寸法とサイズ、公差
穴を開ける場合、まずは位置が必要であるということがわかりました。次は、形ある穴を開けます。穴径はオブジェクトなのでサイズです。サイズを表す寸法には独自に公差があっていいわけです。だから必要に応じてサイズ公差を明示します。

加工と幾何公差
あとは、製品の各面が加工されて行きます。その各面に厳しい要求仕様を設定するのならば、幾何的な考察をして、数ある幾何公差記号から、確実に対象の面が基準データムをもとに確定できるように幾何的考察で指定して行きます。これは結構経験が必要と思います。まさしく幾何パズルです。でも、まずは認知しなければ認識できない。所詮中学数学の幾何の知識の延長でしょう。このことを考慮すれば、日々図面を眺めて考えているだけでも、経験になってやがていつかはきちんとした 「設計のできる機械技術者」 になる日も近いことでしょう。

設計は図面なんかではなくて、形を決定するまでの過程の上にある思考です。常に合理的な思考によって製品を改革する立場にあるのが、製品の開発設計者としての機械技術者です。合理的な考えができれば、もはや寸法には位置とサイズがあり、公差はどこにどのように、どういう理屈で書き込む(形状を決定する)かを理解できると思います。もちろん、NC加工にすれば、簡単な加工なら最近ではある程度の公差内で加工がなされ、標準的な製品が出来上がります。それだけでよければ公差は標準公差となり、表記を省略できます。でも、軸穴結合や、精度がきになる位置合わせ、固定しない可動部、などには設計意図を加工者に伝えなければなりません※2。だから、基本的な設計の思想は理解しておくべきで、その知識の有無は図面に現れることもあるわけです。

寸法線 公差書いたら 底知れる

これが、今回のトピックスのまとめです。えっ?じゃぁ寸法には一切公差をかかない方がいいてことですかって?ははは、リアルにそんなこといいそうだから怖いです・・・^^;;;

その1その3

 

※1 まぁ、このサイトの基本方針に沿って、わざとまわりくどく記述されているわけです。何か起こる、何か違う、という表記ですから、”起こる”、“違う”というケースを考えて理解してください。ここに書かれているのは所詮はクイズのヒントです。リアルな学校なんですから、在学の趣旨を踏まえればせっかくの同級生と議論してみるのがおすすめです。そんな同級生がいない? それは友人を間違えているか、さもなくば、、、選択した大学を間違えたか、ですね。^^;;

※2 わかりきったデータムを省略した図面を渡しても、自社の評価や今後の取引を考えれば、設計者の不備を補っていいものを作ってくれる、それが日本の”ものづくり”には今も生きているようです(それも高品質と言ってよいのか?)。でも、それは上流企業の技術力を低下させ、無理で高コストな発注を、理解しないまま従来よりも低コストでベンダーに押しつけるモンスター担当者を産む土壌になっているかもしれません。海外に発注したら、ま、いきなり量産はないでしょうけど、世界は進歩している(はずな)ので、上述のようにきっちりした製品ができてくるかもしれません。でも、どんな国のどんな人に依頼してもそうなるかどうかはわかりません。もめたときには図面(あるいは公差を含んだ情報)だけが頼りです。GPS準拠は、そんなリスクを防ぐ製図法です。図面に頼らず(3D モデル)情報で仕事をする時代がもう欧米ほかの世界では十年も前に規格化されている、ということです