機械工学
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寸法公差と、サイズ、位置の公差とはめあい ~ GPSはもう来てる その1/3
寸法公差と、サイズ、幾何の公差とはめあい その1
かつて「学校」で機械設計製図を学んだ技術者のタマゴが、学生時代に悩んだ項目の一つははめあいではなかったでしょうか。幾何公差はさらにその先にあって、霧中のものでした。
その仕組みの概要はわかるものの、当時の学校ではきっちり実践できている人も少なく、教科書を見てもあいまいな文章で記号などがただ紹介されているのみで、同じことが繰り返され、解説はありませんでした。
それにくらべれば、現代は情報が(きちんと調べることのできる人には)簡単に手に入り、しかもその情報が、実際に製造業に携わっている人のリアルで現実的なものであるという点で、学生さんのみならず、私個人も環境の改善を実感しています。
学生の頃には指定する値が全くわからなかった、はめあい、表面性状、さらに端からあきらめていた当時でいう寸法公差、幾何公差まで、最新の情報が手に入り理解できる時代になりました。
もっとも、本課程の設計製図演習では、古い内容の教科書を採用し、「採用教科書の内容に沿った教育をする」、という方針なので、新JIS対応(GPSの概念採用)はまだまだ先になりそうです。
すでに産業界、新JIS策定の委員会などからは、大学教育に対する批判が出ているようです※1。しかしながらそんな強い警鐘も、残念ながらその声が少なくとも本課程にも届くことはなく、それどころか、新JISの説明をすれば眉を褒められているのか無反応で冷ややかな視線を感じます。別に、機械設計に関した特例ではなく、大変封建的で保守的で、でもそのくせ、帝国的に革新することはあるのですが。
ま、そんな、カリキュラムは文科省が審査、認可しても内容までは踏み込まない日本の教育状況下で、学生への定着度は目をつむっている雰囲気もちょっと感じられそうな本課程で、今回のトピックスは、製造業に就職して本当に機械設計ができる、チェックできる、指示できる、そんな機械技術者になりたいと本当に思っている学生さんのためのOBの意見もちょっぴり入ったヒントです。
彼の勧告で絶対的に推奨されているのは、GPSです。もちろん、みなさんの携帯端末なんかに入っているGPSとは別のGPSです。製品幾何特性仕様(Geometrical Product Specifications)。この規則は、これまでの指定方法の不合理性に真摯に実直に向き合って再設定されたISO規格です。欧米で2010年には規格化された内容です。製造業大手やグローバル企業ではこの時点で対応していたことでしょう。
技術や科学は、もちろん社会を含めた組織運営ですら、現代では合理性が求められます。よく誤解している人もいますが、合理性は理が通っていることで、不合理を許容、黙認することはすでに大きな問題です。日本では前例や慣例という言葉で組織や権限者にとって不都合な合理性を抑圧する傾向が強いですが、根拠のない人間関係への配慮や、論理的な思考や工夫を避ける人物がいたら要注意です。また、合理的に変更することで、従来よりも経費が増加することも当然あります。それは、倫理や法律規則に配慮することで合理化に工数が新たに発生することがよくあるからです。質が改善されるのならば当然です。それを理解しなければ、結局競争に負けて組織は淘汰されます。経費評価は、合理化前条件と比較することが不合理であることも理解できるでしょう※2。新たな条件下で改めて効率化を進める工夫が管理者や技術者には求められます。機械設計は、このような作業も含まれ、製造業を支えています。
以下に、JIS化されているものから従来との差異がわかりやすいものをピックアップしながら今回のトピックスをザックリ説明してみたいと思います。もっとも、そもそもここに出てくる寸法に関する概念や用語、これらの意味も関心がなくて知らなければ、以降のお話は理解するにはかなり厳しいかもしれません。少なくとも教科書の対応部分を読むだけではなく理解しようと努力しておく必要があるでしょう。
寸法公差
寸法公差。聞くと、寸法の公差なんだから何が悪い、寸法には誤差があるのだから、寸法に許容範囲を規定する許容寸法を公差として書くのが合理的でしょう。図面は寸法を指示するのだからそれ以上はないだろう。ふむふむ。でもそう考えている人は、たとえ研究で三次元を探求していても、思想、思考が一次元な人です。板の上に一列に穴を開けれても、機械や特に三次元曲面で構成される航空機などの設計は厳密には無理かもしれません。
今回の当該JIS 2016年 改定では、GPS導入を強く印象づけるためか、多くの用語を意図的に変更しています。寸法そのものは当然依然存在しますが、GPSでは実際には、位置、大きさ、という言葉を使う方がはっきりする、という変化が生じそうです。会話の中ででも「寸法」なんて言うと、その素性が曖昧になってしまうからです。今まで記してきた「寸法」の多くは、TED ( Theoretical Exact Dimension : 理論的に正確な寸法)に置き換えられます。表記方法も変わります。これを表記できるためのデータムの存在意義です.従来の寸法公差はなくなり,寸法が位置とサイズに分離され、位置については理論的に正確な寸法で表された位置において幾何公差が利用される、オブジェクトのサイズについては図示サイズに要素のサイズの上、下の許容サイズを参考に上、下の許容差をサイズ公差として表記する、という具合です。公差について、幾何公差とサイズ公差に区別します。
だから、設計製図演習I で使用した三次元 CADはそういう仕組みになっていたのです※3。それを学んでいれば、ISO準拠のGPSは何にも怖がることはありません。それどころか旧JISなんかよりはるかに理解しやすい「概念」を含むものです。あなたが手にした指定教科書が古いものでしたら、それでも用語の新旧対応表くらいは入っているでしょう。気になったら授業中に質問してみてもよいかもしれません。
今回はここまで。
※1 詳細はJISの文書を購入するかネット検索等で調べて直接お読みください。
※2 2019年初頭時点で、2018年末に発生した欧米と日本の自動車メーカーに関する事件では、能力のない経営者から能力のある経営者への交代とその後の業績改善、それに伴う報酬とその世間手を気にした対応などに依る捜査が行われています。能力がなかった経営者から、ある経営者を海外から導入し、その取り扱いを前例に従って評価している、という見方もできます。合理的かどうか。グローバルスタンダードで争われる初めての事例は、最終的には被疑者への超高額の賠償金支払いで決着する可能性もありそうですね。(2019年9月追記 積極的に問題追求していた後継社長が結局不正を理由として辞任してしまいました。今後の進展があれば、それは日本にとっては重要な判例になるかもしれません。)
※3 アノテーション、っていう項目がありましたよね。その言葉の意味を自分で調べてみましたか?プログラミング手法でいえばさしずめクラス変数や関数のメソッド、プロシジャー、でしょうか。