機械工学
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翼面の剥離と失速、乱流遷移 〜 実験レポートの課題
機械工学域機械工学実験では、本研究室が所属する研究グループは、市販実験装置による翼の揚力特性計測実験を担当しています。
さて、翼(よく)に限らず、ブラッフボディのような物体では剥離が生じることが多いです。
その中でも、実験のテーマに取り上げられている翼は、あまり大きくない迎角でははく離が小さな形状を持つ物体要素です。実験の模型は,たいへんオーソドックスな “NACA 0020″です。この有名な4字系列のNACA翼は,層流翼 NACA6*-*** などのような物理的な改良を加えた翼型とは異なり,航空機開発の初期のパイオニア的技術者バージニアス エバンス クラークによる工学的配慮の基 開発された Clark Y 翼型の翼厚分布を持ち,翼そのものの特性を系統的に調査するために幾何的パラメーターを主眼にして開発された翼型です.
この翼型。たいへん有意義な知見を提供していますので,飛行機のような空気中(気体中)のみならず,水中(液体中)の機械にも多用されています.この翼型グループは,翼厚が様々に変化するので,平板翼に近い薄翼や,肉厚のある翼型の揚力特性の特徴も示します.
さて,失速とはく離。この二つは教科書やネット上の説明を読むだけでは違いがわかりにくいかもしれません。実際、失速は、「云々 はく離によって揚力が減少すること」,”みたいな” 説明がよくなされています。はく離はどんな物体にでも使用される,工学的な流れの現象の代表的な現象の一つです.失速は,翼(あるいは揚力を派生する物体?)で使用されます.じゃぁ、失速は,揚力体のはく離を指す言葉なのでしょうか.
失速と言うことばは,日本語では「速度を失うこと」です.英語では「stall」です.工学的にはエンジンの分野でも用いられます。やはり「勢いを失うこと」という意味があるようです.翼上面付近の流速が低下するからこの言葉をあてがったのでしょうか.たぶん,落っこちるから単に stall と呼んだだけのような気がします.
もしも受講生のみなさんが調査をしたならば,流れというモノは,逆圧力勾配によって境界層内の流体のエネルギーが失われ,それによってはく離が生じる,というような内容にでき和すでしょう.そうであれば,翼の迎角増加に伴って,翼後縁からはく離が始まり成長するはずです.じゃぁ、はく離が生じたらもう既に失速が始まってる、ということではないですか?ですよね?
失速の特徴は,基本的に形状の特徴に対応して3つのタイプに分類できます.
- 前縁失速:もっともドラスティックな失速
- 後縁失速:おもに,失速してるんだかどうだか微妙な失速
- 薄翼失速:はく離したり再付着したりしてやがて失速に至る失速
1. 前縁失速
前縁での揚力発生が大きく,すなわち流速増加が激しいと,慣性の効果が粘性効果を打ち破って,前縁から一気にはく離し,その結果、急激な揚力ドロップを生じ,失速するようなパターン。NACA の資料で,比較的薄い翼で揚力の急激な減少が見られる.これらの翼は,前縁が相対的にとがっているので,一旦はく離してしまうと元に戻れないのかもしれませんね.一番失速っぽい失速。
2.後縁失速
迎角が大きくなると,逆圧力勾配に耐えられなくなった流れが,翼の後縁からはく離し始めますが,この領域では速度が減少するので圧力が高くなります.そうすると,逆圧力勾配も大きくなってくるので,迎角の増加によってさらにはく離点が前縁に近づいていきます.この領域がある迎角で,迎角増加による前縁での圧力低下による揚力増加を上回れば,揚力はもう増加しません.なんとなくはっきりしない失速になって,なんとなく揚力が下がっていく感じ、伝わりますよね?
3.薄翼失速
これは 1. の前縁失速と似ていますが,薄翼の場合は前縁での曲率も小さいので,流れがよく表面のR(アール)についていけず,つい,はく離してしまいます.とはいえ,迎角そのものがそれほどおおきくなくてもはく離するので,はく離点の後方でまもなく再付着します.迎角が大きくなるにつれて,再付着が遅れ,再付着点が徐々に後方に下がっていきます.はく離泡内部の渦が非常に強力でない限り,はく離包は揚力に寄与しませんので,はく離包が大きくなるにつれて揚力の発生が低下していきます.やがて,揚力の増加をはく離泡による揚力喪失が上回ったとき,揚力は減少に転じます.この場合も,比較的まったりと湯力が減少に転じそうです.
これらは,単独で生じるのか複合するのか,など,レイノルズ数によっても影響を受けますので,その状況は多彩です.
上述のような失速の説明は,この記事の疑問提起のように疑念を抱くと思います.
# あ、最近の機械工学技術者志望者は,この程度のことに疑念は持たないですね ^^;
おそらく失速を正確に表現するならば,絶対的に揚力特性に注目すべきでしょう.その特性が,迎角増加に伴ってどうなるかを観察し,「臨界迎角」という言葉が示す特徴点に着目する必要があると思います.そのような点を超えて揚力が減少したとき,まさしくそのときの迎角が「臨界迎角」であり,そのとき失速が始まったのです.
もちろんはく離は関係していますが,はく離を理由にすると,上述のようないろんな解釈がわき上がってきて,意味不明になってしまいそうです.
失速は,とても物理学的なはく離とは違って,とっても工学的な用語ですね.
あ,乱流遷移,忘れてましたね!
乱流遷移は,はく離に影響はしますが,はく離現象とは異なる現象です.壁面を流れる流体が,壁面との粘性摩擦(境界層の速度勾配によって生じる剪断力という粘性力による力)によって,やがてその分布にアンバランスが生じることで,層流から乱流へと遷移する現象のことです.同じ翼型でも,いろんな条件の違いによって,どこから乱流遷移するかは本来異なります.いち早く乱流遷移を起こした場合の効果と,できるだけ層流で粘った場合の効果,それぞれについては,速度勾配による剪断力や,層流と乱流のせん断層内の速度勾配(速度分布)の違いなどを考えて,區力への影響を考えてみてください.
注)以上は,とっても私的な解釈を伴った,大袈裟,紛らわしい,表現が含まれているかもしれません.あしからず.