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翼の失速時の流線 〜 実験レポートの課題
翼の失速時の流線 〜 実験レポートの課題
注意:この記事は好奇心を持つ人を対象にしたネット上の所詮一コラムです。本研究室担当班(2019年度後期においては2,4テーマ目に当たる組にのみ)には授業での説明にしたがった自己啓発調査の資料のひとつに相当します。それ以外の組には信頼の置けない一ネット記事に当たりますので話題にするだけでもマイナス評価される可能性があり、評価に関する効果は一切保証されていませんので当然ながら各個人の責任で使用してください。
本研究室が受け持つ専門科目の実験テーマでは、現在は翼が用いられています。機械工学で翼素の実験というのは、やや理学よりな感じがしてかなりグレーかもしれません。昔から流体工学は、流体力学の発展の歴史から、かなり理学志向が強いものでした。翼の実験は、どちらかといえば力学の基礎実験で、狭義の機械工学の観点からは結構濃いグレーゾーンでしょうか。でも、最近の機械工学は理学っぽいノーベル賞を取れるような研究をするのが常識だそうなので、こんな記事を書いても賛同者はいないと思います。
それでもよろしければ、ネタのひとつとしてどうぞ。
さて、前置きはそれくらいにして、受講者に、「実験レポートには、現象を模式図等図を用いて説明すること。すなわち、翼周りの流線の図を書くこと。」と指示を出します。言わなくたって、現象直結の模式図描くならこれしかなさそうですが。それでも書いてこない人はいます。もちろん、実験説明の時間には、流線がどういうものか、連続の式やベルヌーイの式も示して、その意味もそれなりにあぁだこぉだと話しています。ところが、実際に書いてくれた人のレポートを見ると、翼の剥離泡がありません。翼上面には湧出しが存在しているようです。その理由は、まぁ、ネットの失速の説明の図に、完全(complete )な流線を示したものがないからだと思います。紙面の都合で、流線が再び合流するところを省略している可能性も大きいです。翼の失速を計算した数値計算結果には、最近は3次元が主流で、龍脈線が多く、流線は示されたとしても難解です。流線とr流脈線は異なります。その2つの違いが、事前説明で話した内容を全く身につけていないので、スルーしてしまうんでしょう。まぁ、それを試すための課題でもあるんですが。
可視化の写真を見て、流線だと思い込んでる人が世の中にはきっと多いのでしょう。主にスモーク法で取られた写真を模式化した図をさして、はく離の流線として紹介しているものも多いように思えます。少し意識をしているのか、流れの様子、と称しているものはよいですが、受け取る側は曲線が並んでいるので流線と思い込むのでしょう。見る側の問題といわれればそれはその通りです。
はく離領域内とその近傍は非定常流な状態が一般的です。もし、剥離泡の面積が安定しているのなら、流脈線はそもそも剥離領域に入っていないので、剥離領域は大きな空白地帯になってしまいます。流脈線なので閉じなくっても大丈夫です。重なりはしません。多くのネットで流通している流れの様子は、流脈線イメージのようです。剥離と一様流の境界に小さな渦列が描かれていたりします。可視化実験のスモーク法では、剥離泡に捕まった現実のスモークが拡散して、なんとなく剥離の中に停滞しているようには見えます。非定常なんだから流れは定まらないだろい、って言っても、流線はそもそも瞬時のお話で、多様かもしれませんが、ルールは成立するはずです。
# 余談で個人的な感想ながら、流跡線は、”粒”跡流と表示する方がイメージがわきやすいです。ちなみにこちらは交差しても重なっても大丈夫です。
では、剥離しているときの流線は、どのように描いてどう説明すれば良いのでしょうか。現実は、剥離泡は、時々刻々とその面積を変化させているのでしょう。特に不安定な状態の場合、その面積は大きく変化していると思われます。その現象が実験で計測する翼表面圧力の大きな時間変動として現れます。成長時には外部から、縮小時には外部へ、流体の移動があるはずです。そのため、スモーク法による可視化実験では、スモークが剥離泡内に流入、排出され、比較的濃いスモークが渦巻くように見えるのでしょう。一方、前縁剥離になると、面積変動は収まり、スモークの出入りも比較的少なくなるため、剥離泡内部のスモークが薄くなっているのでしょう。
実際、学生がしてるであろうネット検索で翼失速時の剥離の様子を説明する図を探して見ると、なかなかよいものに巡り会えません。もちろん、ネット検索は一般人対象がほぼ100パーセントですから、まっとうなものがなくても不思議なことではありません。でも、翼については、教科書にもなかなかありません。
# まだ学術論文等文献の図を検索できるツールはなさそうです。
それはこういう背景があるためかもしれません。ただ、剥離泡の後半が少し大きすぎるような気もします。これについては、時間ができてOpenFOAM ででも計算できたなら、いつか記述してみようと思います。
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剥離したら、流線は閉じるかどうか考えよう!
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流線に関しては、大学院生でも同じです。特に、数値計算をしている人でも、流線がまっとうに書けない人が大多数です。最近は、便利になって、数値計算結果から、流線、流脈線、流跡線はもちろん、三次元でも渦度分布なんかも簡単に作成できるようです。流線なんて常識だから、と思っていると、あるいは、便利なツールで目で見て四六時中接しているんだから、なんて思っていると、落とし穴にはまっているかもしれません。そもそも認知していない人には感知できないので、数値計算で世界的な論文を発表しているのに、実は、なんていうこともありそうです。3次元の大規模計算をしていても、2次元の流線が書けない。あなたは大丈夫でしょうか。
あと、翼につながる流線など、物体周りの流線に関して、物体につながる流線を書いていないものも、アウト、です。いつでも説明しているとおり、物体の表面は1つの流線ですから、その流線が物体の前後で消えてしまっているなんてあり得ません。物体を表示したら、流線を模式図で書くならば、絶対に物体に繋がった流線を書き切らないとおかしいです。
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物体を通る流線を書こう!
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今回は上記の2点のキャンペーンです。非常に初歩的です。細かいし、現実と比較すると難しいところもありますが、そういうことに思いを馳せて見るのも悪くないのではないでしょうか。たかが剥離の流線だけでこれだけかけるんだから、課題の実験レポートの考察なんて簡単ではないですか。ま、本研究室の提供するサービスなんてこの程度のレベルです。だから向学心の強い学生がこないのでしょう。
実験のレポートを書く時は、流線に関しては、少なくとも上記2点は重大ですので、お忘れなきように。
【補足】
流線を学んでも、本当の意味がわかっていなければ流線をかけないし、流線を読めません。機械設計の製図図面のようですね。情報工学のプログラミングのようですね。同様に、ポテンシャルを勉強して練習問題が解けたって、ポテンシャルのコンターから流れは読めませんし、流れから圧力分布も想像できません。天気図なんて幼稚園児のころには見た記憶があるでしょうし、小学生のころから習っているのに不思議ですよね。
流線をただ流れの線と思っているとかけない、ということです(もちろん、筆記具を動かせ画「流線」と主張するモノはかけますが)。流線が閉じるのかどうか、を考えるときには、それなりに理解して、理解するために考えてみて、それから書くべき、と言うことです。閉じるとはどういうことか、開いていると言うことはどういうことか、です。
わかってしまえば簡単なことを自分で考えて解決しないと、複数の流体の授業でそういう「流線」のことがわかるだけで、何かを自分で解決できるようになるための道のりは縮みません、ということが少し言いたかったのです。