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渦ってなんですか?[1] ーー 渦の定義

渦ってなんですか ーー 渦の定義

渦は、流体というものに関心を持った人なら、一番に気になる流れの現象です。あのレオナルド ダ ビンチだって川の流れをスケッチしたし、太古の土器や金属器にも渦が描かれてます。カルマンが渦列について考えるきっかけがダビンチよりも100年以上古い時代の描かれたイタリア ボローニャ に残るキリスト教フレスコ画だったりするそうです。川や海のような比較的大きな自然の中では直接、もっとみぢかなところでは、排水溝、洗面台やキッチンのシンク、浴槽や容器のお湯の動き、ティーカップやコーヒー、みそ汁をかき混ぜたときなど、どこにでもすぐに見えます。もっと大きなものでは、つむじ風や竜巻、衛星写真の映像、さらには銀河の星雲など(もはや連続体ではないですが)です。
# なのにあなたはどうでしょうか。。。
流体の教科書で「渦度」の定義は見られますが、渦はあまり定義されているのを見ません。「渦」の説明をしているのかと思うと、いつの間にか流体の流れの中の変形の話になって、いわゆる、伸縮、せん断(ずり変形)、回転、の話に置き換えられて、気がつくと「渦度」や「循環」の話にすり替わってしまうことが多いようです。
ウキペディア(2017年5月現在)でも、「渦(うず)とは、流体やそれに類する物体が回転して発生する螺旋状のパターンのこと。渦巻き(うずまき)などとも言う。」というように、渦の定義はほんわかとしています。これはこれで十分正しいのですが。ブリタニカ百科事典には、「常識的には,流線が閉じた曲線となる旋回流を「渦」と呼んでいるが,流体力学ではその定義は一様ではない。流体の小部分が自転しているとき,自転の角速度の2倍を渦度といい,これで渦の強さを表わす」とあり、これはより詳しく、定義っぽいように感じますが、やはり渦度の説明にすり替わっている感があります。
流体力学の中では、モデル化されたランキン渦(自由渦)や剛体渦(強制渦)がもっとも渦らしいもので、これらは定義も性格も明確です。

で、あえて「渦」を定義して見ます。

素案1
「渦とは、ある速度場を差し引いたときに、環状の流線を持つもの。」

カルマン渦列など、物体の後流のように単純な流れなら、一様流場を差し引けば、この定義が使えそうです。鳴門の渦のようなシンク(吸込み)の場合、流線は閉じた円にはなりません。中心に向かった速度場があるので渦巻き状になります。この時は、このシンクの流れ場を差し引けば良さそうです。
このことを考えると、ブリタニカの定義がもっとも要を得ているように思います。200年近い近代流体力学の歴史の中で、もっともポピュラーな現象である「渦」が定義されていないのは、きっと何か深い理由がありそうです。
上掲の「素案1」だって、ツッコミどころは、「ある速度場」でしょう。これは一様流や吸込みを想定しているものの、「ある」としてしまえば、かなり脇の甘い定義になってしまっています。日本の平成の法律のような香りです。きっとこの辺りが渦の定義の難しさなのかもしれません。

いずれにしても、現状では、渦度やモデルである強制渦、剛体渦はしっかりした定義があり、その使用はそれに則して使うべきで、「渦」は渦で、しっかりとした自分なりのイメージを持って使い分ける方が良いと思います。
一方で、より具体的な現象を説明する際には、「放出渦」、「カルマン渦列」、「翼端渦」などなど、渦の定義は曖昧ながら、渦に関する現象は定義されていたりします。
なかなか用語というものは難しそうです。常に意識は持って、技術文書を読んだり作成するように心がけないといけませんね。