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聖剣、エクスカリバー と 機械設計

聖剣エクスカリバーを聞いたことがあるでしょうか。有名な伝説、神話に出てくるので、名前くらい知っている人は多いと思います。
彼の大国、UKの国の歴史のなかで、古ブリタニアの成り立ちに関連する伝説に登場する剣です。さしずめ、日本で言えば、三種の神器(みくさのかむだから、さんしゅのしんき)の一つ、熱田神宮に現存していると言われる草那芸之大刀(くさなぎのたち)でしょうか。

エクスカリバーは、5世紀の頃、ローマ系ケルトであるブリトン人領土(現英国ウェールズあたり?)へのサクソン人の侵攻から、ブリトン人を率いてを撃退したアーサー王が、国の正当継承者であることを、石に刺さったこの剣を抜くことで示したとも言われるものです。正当継承者を示すというのですから、よっぽど抜くことが大変だったのでしょう。

これを機械工学的観点から考えてみましょう。抜き取られた聖剣エクスカリバーは、さび付いていたわけではなさそうです。ということは、型に対応する石に対して、製品に対応するエクスカリバーが抜き取りにくかったと言うことでしょうか。

きっとそれは、抜き勾配がとられていなかったのではないでしょうか。

抜き勾配と言うのは、鋳型や射出成形品、板金製品(注1)など、型にはまった製品を製品に傷をつけることなくきれいに抜き取るために絶対必要な重要な機械設計上の配慮です。もし、勾配がついていなかったら、型と製品面は接触面が長く、少し抜いてもなお接触面が存在するため、非常に大きな摩擦抵抗が生じて型抜きが困難になるだけではなく、製品表面を傷つけてしまいます。逆勾配があれば、型を壊さない限り、そのまま引っ張る(通常は押し出す)だけでは型から絶対に抜くことはできません。

このような斜めの面を、面に勾配がついている、といいます。似たような表現に、テーパーがあります。こちらは、たとえば旋盤のようなもので角度をつけて、全面,あるいは左右対で角度がついている場合などに使用します。この二つの寸法、つまり角度の定義はことなっているので、混同すると寸法の異なる製品ができてしまいます。
勾配は、単独でもよいことからわかるように、一面の角度を指します。
一方、テーパーは、二つで一組、つまり、両面のなす角度を寸法として表示します。
したがって、この用語を取り違えたとき、最悪の場合は、できあがりの角度が、二倍、または半分になって仕上がってしまうと言うことです。

エクスカリバーの剣が、抜きにくかったと言うことは、先細のくさび形の剣ではなく、ストレートな剣だったと言うことでしょうか。
いえ、ひょっとすると、先の方ほどふとくて大きい、逆勾配を持った剣だったのかもしれません。先が重いと、振り回すにも大変苦労するでしょうから、そのような剣を扱うことができる強い人物のみが、この聖剣エクスカリバーを抜くことができた、という試練だったのかもしれませんね。

なるほど、英国の祖、アーサー王は、かなりの猛者だと言うことがうかがい知れます。 ^o^

 

注1
機械加工について、どのような種類があるのか、系統的に機械加工法についてきちんと整理し、説明することができているでしょうか。系統だった知識の整理無しには、身についた知識とすることはできず、聞いたことがすべて情報に埋もれて生かすことはできません。当然、それらの知識を元にした創造的な発想は不可能になります。習ったことを、ネコ顔負けにすぐ忘れてしまう人は、真摯に学問体系を正視すべきです。