雑感

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教育 — 工学に関心を向ける方法

工学に興味を持つにはいったいどうすればよいのか。

大学にいればよく以下のようなフレーズを聴く。
「今の時代は、大学に入ってから学生に工学に興味をもたせる必要がある。授業でも持たせるような話をしている。それが指導力だ。」
アドミッションポリシーなんて吹っ飛んでしまうような発言です。

残念ながら、私はこの意見には否定的です。
近年では、JABEE(日本技術者教育認定機構)ができ、そのプログラムの一角をなすべきFD(Faculty Development:大学教員養成)が通達され、末端当事者丸投げ的な活動をメインに、講演者招待によるイベントと参加者数動員のカップリングによる組織的な JABEE/FD イベントが中心的に行われています。そのテーマが研究に直結する大学教員は担当になってにわかに熱心に論文を書いていますが、その実態は、大学間、学部間、学科間でも温度差が大きい、今風にいえばゆるーい施策です。

もうすでに二十年ほど実施(JABEEは1999年末に設立、そもそももっとはるか昔から同趣旨の活動はあったはずなのですが)されていますが、五月雨的に海外の管理工学的な手法が取り込まれた現場離れしたサンプルが、数年に一度紹介される程度です。本課程では理事長が JABEE の旗揚げをやめたのをきっかけに永遠の JABEE準備活動 も終了しました。

優秀な研究者である大学教員が、日本中で取り組んでも、現場があまり変わらないのは、よっぽどFDとは困難な課題であるのか、実は大学教員のレベルがきわめて低いのか、はたまた、全く教育サービス改善に関心がない集団なのか、のいずれかと推測しますが、きっと、優秀な科学者である大学教員も容易に改善できないほど難しい作業なのでしょう。

さて、大学の体制の話をしても始まりません。常に気になるところですが、一方の現実として、同じ国家教育担当部門である文部科学省の、非常に細かな教育指導要領に管理された、一定の均質さを持った義務教育や高等学校の授業を聞いてきたにもかかわらず、学生さんの質には非常に大きな隔たりがあるのも事実です。義務教育の教員の質に差があるからだという意見もあるかもしれませんが、同じクラス内でもやはり隔たりあります。

保護者にとっては、それは学校教育が悪いから、塾に行かせているからだと思う方も多いように思いますが、おそらく同じ塾に行っても、同様の現象は起きているように思います。さらに、本当の優秀な人は、もはや廃語になってしまいましたが、「一を知って十を知る」というように、理解が速く、それだけ時間に余裕ができるので、さらに多くのことをなせます。たとえば、「あの子は勉強してないように見えるのに、勉強ができる」、「勉強してないふりをして油断させている」、「勉強ができる子ほど勉強時間は短い」なんていう都市伝説のような話を聞いたことはないでしょうか。

学校教育に限って考えれば、同じ教員から教育を受けても成績に差が出てることは明確です。ということは、学校教育(学校、教員の違い)が勉強の成績の差になっているという意見は、科学的にかなり無理があります。簡単のために同一学校内に限定して考えれば、クラスが影響しないという事実を真摯に受け止めるとすれば、いったい何が影響しているのでしょうか。そう、学校外教育です。「ほら、やっぱり塾、塾選びが大切なんだ」と思われた方、それが理由では塾内の隔たりを説明できません。同じ学校で、かつ、同じ塾に行っている場合に上述の事実はそのまま適用できるのですから。

もう察しのいい方はとっくにおわかりと思いますが、その答えとなる「場」は、生活から学校や塾を除いた時空間です。

その「場」は、各家庭によっていろいろと思います。単純に、残余場が、「家庭」という人もいれば、「家庭や遊び時間」など複数の場という人もいるでしょう。

教育を考えたとき、結局、学校のような教育サービスを提供する空間の内容も影響するとは思いますが、おそらくそこで扱っていない「教育」の効果がもっと大きくて、その効果が、教育サービスを提供する空間の効果を左右していると考える方が論理的です。

だから、残余場において保護者として関与できる、「家庭内の教育」こそが、最も効果的に人材育成を変えることができるのだと思います。

つまり、学校なんて現状でもはや十分。家庭教育をしっかりすることで、未来の人材が変わってくるということです。ということは、実は国家にとっては、「”家庭内教育”教育」こそが、急務といえます。しかもその効果的な時期は・・・

この先の話はまだまだ長いです。

本研究室で接触できる学生さんの数は非常に少ないですが、上述の考察を踏まえて、機会があった学生さんたちには、すでに時期が遅いと思いますが自分たちの勉強の手法と、将来に向けた学生さんたちの子供への教育指針について、ごくごく短い限られた時間の中で伝えるようにはしています。

しかしながら、就職という比較的近い課題すらまだ先のことと先送りしている学生さんの多い中、学生さんの子供の話をしていると、大多数の学生さんは迷惑そうな顔をしています、が。。。。

追記
2018年の文科省大学教育のありから中間まとめでは、輩出すべき人物像、として卒業、修了生のゴールが記述されています。

「4.輩出すべき人物像

まず,社会における工学の価値を理解し,自律的に学ぶ姿勢を具備するとともに,原 理・原則を理解する力,構想力,アイデア創出能力,問題発見能力,課題設定能力,モ デル化能力,課題解決・遂行能力を持つ人材育成が必要であることを前提とする。 その上で,前述のように,輩出すべき人物像についても,短期,中期,長期の戦略へ の対応を意識した人材育成に向けた教育が必要であり,一人の学生にすべてを教えるの – 3- ではなく,人材のダイバーシティを確保することが必要である。 なお,スペシャリストとしての専門の深い知識と同時に,分野の多様性を理解し,他 者との協調の下,異分野との融合・学際領域の推進も見据えることができるジェネラリ ストとしての幅広い知識・俯瞰的視野を持つ人材を育成することも重要である。 さらには,これだけの情報通信技術の進展により,様々なサービスが提供される中, 製造業と非製造業の橋渡しができる人材や,システム同士がデータによりリアルタイム に連携する仕組み(System of Systems)やサイバー空間上に精緻なモデルを組み上げ 高精度な実証,予測,最適化を可能とするデジタルツイン機能を代表とする「バーチャ ル空間」と「リアル空間」の融合等を俯瞰的に把握できる人材を育成することが必要であ る。 」

さて、この文章からどのようなイメージを受けるでしょう。そして、それを大学教員が解釈した結果、どのような教育内容になるのでしょう。その頃には私はもう消えていますので、ふと思い出して気になったら確認してみることにします。