コンピューター関連
category
設計、開発、研究
世間では、言葉というものは時代によって意味が変わっていく、その時々に合わせて、変わるものだ、というような意見があります。一方で、言葉の意味は、きちんと定義され、経緯を知った上で使わなければ、文化が伝わらない、言語の軽視だ、などのように、というような意見もあります。そんなさまざまな意見の人が混在しているので、現実は、前者の効果が支配的です。エントロピー増大の法則です。
機械工学などの技術の世界で、技術用語が時代とともに、世代間で通じないと、少し困ります。でも最近では、すでに現実化していることです。最も最近では、そもそも専門用語を調べたり、覚えたりしようとせずに、その場の空気を読んで自分の思った意味に解釈していることが原因のようです。まぁ、世間と同じ構図が専門教育の場にあるのは必然、これもまた、エントロピー増大の法則です。専門教育を行なっている中でもこんな状況ですから、各人の個性を伸ばす教育を受けて自由に成長してきた大学入学前の人々が、想いおもいのイメージで進路を選択している現状は、まさしくカオスです。
2010年頃には、技術者教育とは何かが文科省で議論され、結果的に、技術者教育の中で、「学士課程においては、すくなくとも数学や自然科学、・・・」とされ、その解釈の結果、数学と物理の科目に絞られました。個人的には、経緯を鑑みるに、上述と同様な違和感がありますが、、、、就職するために大学に進学するのなら、「職業実践力」を真剣に考え、教育するカリキュラムのある大学がふさわしいのかもしれません。
さてそれは横におき、かつて、機械工学分野では、ものづくりという言葉がこれほど圧倒的に利用されていなかったのではないでしょうか。20世紀末までは、設計、研究開発、という言葉の方がはるかに主流だったように思います。就職の際も、「設計か研究開発か」というふうに考えられていたように思います。
機械工学に基づく『設計・研究開発』が、法令や世間で使われている『ものづくり』と異なるところがあるのでしょうか。
機械工学では、いまでも「設計製図と実験が重要だ」と謳われることが多く、教育者不足にもかかわらずカリキュラムにも残り、重要な科目として据えられているようです。開発には、大きな構想の企画から、それを実現し、規制の高い壁を乗り越えてコストに合う商品にするための詳細な技術に関する知識と想像力が必要です。設計も開発も研究も、各分担に応じたより詳細な知識と想像力が求められます。機械工学技術者は、どれを担うことを期待されているのでしょうか。
ものづくりという言葉がここまで広がった最近の契機の一つは、平成不況に伴う物価低迷に対応するため、大企業が生産拠点や委託生産先を、急激に東南アジアに移し、技術流出などがマスコミで問題視され、技術発展を支えた中小企業支援も目的に、ものづくり基本法が検討され始めた頃からかもしれません。
ものづくり基盤技術振興基本法 : 平成11年3月19日法律第2号
平成以前には、前文を持つ法令は極めて少なかったが、平成4年頃から、前文を持つ法律が増え始めた。そんな法令のひとつ。前文には、短い条文の言葉尻を捉えて、曲解されることを防ぐための法令の趣旨を明記するという意味では、非常に有効ではありますが、国会の言う『解釈』が時代を追って変わるので、結局はいたちごっこのようになり、政治家に対してはあまり効力を持たないことは、憲法論議や、旧教育基本法改定の新旧比較、などを調べるとおもしろい(興味深い、予備知識があれば考えさせられる、と言う意味。いとおかし、と同じ)と思います。その前文がこれです。
「ものづくり基盤技術は、我が国の基幹的な産業である製造業の発展を支えることにより、生産の拡大、貿易の振興、新産業の創出、雇用の増大等国民経済のあらゆる領域にわたり、その発展に寄与するとともに、国民生活の向上に貢献してきた。また、ものづくり基盤技術に係る業務に従事する労働者は、このようなものづくり基盤技術の担い手として、その水準の維持及び向上のために重要な役割を果たしてきた。
我らは、このようなものづくり基盤技術及びこれに係る業務に従事する労働者の果たす経済的社会的役割が、国の存立基盤を形成する重要な要素として、今後においても変わることのないことを確信する。
しかるに、近時、就業構造の変化、海外の地域における工業化の進展等による競争条件の変化、その他の経済の多様かつ構造的な変化による影響を受け、国内総生産に占める製造業の割合が低下し、その衰退が懸念されるとともに、ものづくり基盤技術の継承が困難になりつつある。
このような事態に対処して、我が国の国民経済が国の基幹的な産業である製造業の発展を通じ今後とも健全に発展していくためには、ものづくり基盤技術に関する能力を尊重する社会的気運を醸成しつつ、ものづくり基盤技術の積極的な振興を図ることが不可欠である。
ここに、ものづくり基盤技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するためこの法律を制定する。」
これを読むと、中心は基盤技術であり、その水準維持も第一条で謳われてはいるものの、当時は人材の問題が中心ではなかったことが、第三条の記述項目から伺えます。個人的には、人材育成は教育基本法にまとめておく方が、個人的には法制度としては美しかったようにもいます。
この基本法で言うものづくり基盤技術の範囲は、幅広いものづくり基盤技術の中から、第二条第一項による政令で限定された特定項目に関する”ものづくりの基盤技術”の、基盤技術であり、産業、事業者、労働者です。
『(定義)
第二条 この法律において「ものづくり基盤技術」とは、工業製品の設計、製造又は修理に係る技術のうち汎用性を有し、製造業の発展を支えるものとして政令で定めるものをいう。
2 この法律において「ものづくり基盤産業」とは、ものづくり基盤技術を主として利用して行う事業が属する業種であって、製造業又は機械修理業、ソフトウェア業、デザイン業、機械設計業その他の工業製品の設計、製造若しくは修理と密接に関連する事業活動を行う業種(次条第一項において「製造業等」という。)に属するものとして政令で定めるものをいい、「ものづくり事業者」とは、ものづくり基盤産業に属する事業を行う者をいう。
3 この法律において「ものづくり労働者」とは、ものづくり事業者に雇用される労働者のうちものづくり基盤技術に係る業務に従事する労働者をいう。』
人材供給を担う大学としては、十二条第二項の職業訓練にどの程度関与するかです。職業実践力のお話は、ここに関連しているのかもしれません。
(ものづくり労働者の確保等)
第十二条 国は、ものづくり労働者の確保及び資質の向上を促進するため、ものづくり労働者について、次の事項に関し、必要な施策を講ずるものとする。
一 失業の予防その他雇用の安定を図ること。
二 職業訓練及び職業能力検定の充実等により職業能力の開発及び向上を図ること。
三 ものづくり基盤技術に関する能力の適正な評価、職場環境の整備改善その他福祉の増進を図ること。
また、大学が明確に、この基本法と関わるのは、次の条文においてです。
(ものづくり事業者と大学等の連携)
第十一条 国は、ものづくり基盤技術に関する研究開発及びその成果の利用の促進並びに研究開発に係る人材の育成に資するため、ものづくり事業者と大学、高等専門学校及び大学共同利用機関(以下この条において「大学等」という。)との有機的な連携が図られるよう必要な施策を講ずるものとする。この場合において、大学等における学術研究の特性に常に配慮しなければならない。
すなわち、学術研究を邪魔しない程度に、この基本法の特定分野の事業者をサポートすることです。卒業生を基本法の対象内容で育成するわけではありません。実際、施策(きちんとした予算を伴う企画、事業者宛の補助金の一部を外部資金としてもらっていること、事務方が公式な業務を担っていること)としては、共同研究等が行われているだけです。もちろん、個別に行われている事例はあるでしょうが、国からの基本法にかかる施策としては、です、たぶん。
その後できた中小企業ものづくり法は、基本法とは対象が別途定められるようです。おなじ “ものづくり” でも、法令ですら、ローカライズされるのは大変複雑怪奇です。
中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律 : 平成十八年四月二十六日法律第三十三号
『第二条 この法律において「ものづくり基盤技術」とは、工業製品の設計、製造又は修理に係る技術のうち汎用性を有し、製造業の発展を支えるものとして政令で定めるものをいう。
2 この法律において「ものづくり基盤産業」とは、ものづくり基盤技術を主として利用して行う事業が属する業種であって、製造業又は機械修理業、ソフトウェア業、デザイン業、機械設計業その他の工業製品の設計、製造若しくは修理と密接に関連する事業活動を行う業種(次条第一項において「製造業等」という。)に属するものとして政令で定めるものをいい、「ものづくり事業者」とは、ものづくり基盤産業に属する事業を行う者をいう。
3 この法律において「ものづくり労働者」とは、ものづくり事業者に雇用される労働者のうちものづくり基盤技術に係る業務に従事する労働者をいう。』
2016年度時点では、以下の12技術が指定されています。
デザイン開発に係る技術
情報処理に係る技術
精密加工に係る技術
製造環境に係る技術
接合・実装に係る技術
立体造形に係る技術
表面処理に係る技術
機械制御に係る技術
複合・新機能材料に係る技術
材料製造プロセスに係る技術
バイオに係る技術
測定計測に係る技術
さてさて、前置きが長くなりましたが(この前置きこそが、経緯、背景として重要ですよね)、次世代人材の思うものづくり、マスコミで提供されているものづくりの情報が大きな影響を与えているに違いないことは想像に易いです。マスコミで提供されているものづくりは、工作技術の番組や、究極の・・・、研究機関の成果、ノーベル賞、企業の開発物語、などなど多岐にわたっています。専門教育の入り口のひとつ、大学では、高校生がこれらのどれに、なにに反応しているかが重要です。それを調べてみたら、結構結果に唖然とする、、、いえ、大学関係者ならもはやおどろかないですよね。でも、それが今の大学の抱える根本的な問題なんでしょうが。
さて、結論。
最近の技術系、特につぶしが効き就職がいい、といわれる機械工学系では、入試に有利な数学と物理が比較的得意な受験生が集まり、こんな技術を使ってあんなものを作り、社会に貢献したい、と、未来の新技術を企画、マネジメントすることを夢に、入学してきている人が多いようです。