設備:多色式速度測定装置
比較的高速で動く物体や、流体計測でのトレーサーを利用した速度等運動や流れの可視化には、高速度カメラ利用が一般的になりました。各画像の解析により、便利なアプリケーションを利用すれば、瞬時に速度ベクトルなど運動の様子が可視化されます。
しかしながら、本研究室のように低予算で実験を行い流れの様子を調べる必要性は、まだまだ世の中にはあるのかも知れません。
世間では、もはや高速度カメラを用いて物理的現象や高速移動物体の観測を行うことが一般的になったのかも知れません。本研究室ではとうていそのような高価な装置を購入することもかなわず、また、学内に存在する高速度カメラを借用することもかないませんでした。特に、一般的とはいえ、プラントエンジニア株式会社様と取り組む課題について申し入れを行ったところ、関係研究機関も含めて借用することすら受け入れられませんでした。一般的な機器になったとはいえ、高価な機器を悪条件で使用するところまでは許容されなかったようです。
そこで本研究室では、古典的なトレース方を用いて、比較的高速な運動を一般用デジタルカメラを用いて観察できないか検討しました。その結果、開発されたのが本装置です。本装置で使用する市販デジタルカメラは10万円前後で入手可能ですが、残念ながら当時の状況では、本装置及びライトガイドなどに100万円強の費用が必要となってしまいました(ライトガイドの費用は工夫によって選択肢があります)。しかし、この装置によって手に入る直感的なわかりやすい画像と、それでも高速度カメラよりは安価であつかいやすいこと、特に、悪条件でも気軽に使用可能などのメリットがあると考えられます。教育機関にとっては若干高価ではあるものの、生徒・学生への物理現象の提示にも適しています。
現在では、さらに安価なシステム構築に向けて改修作業中です(2017/02/14)。
【特徴】
・強い耐候性
撮影対象が、湿度や温度、ホコリそのた、環境条件が悪くても、装置本体をある程度の環境に設置することで、故障の心配なく気軽に利用可能。
・市販カメラの利用
性能向上著しい撮像デバイスを市販カメラにゆだねることにより、その画像解像度や感度などを時代にあったものに更新しやすく、高速度カメラシステムに束縛されない。
・安価なランニングコストとアップデート性
装置本体の故障はともかく、消耗品である光源の発光デバイスは市販部品なので自力で入手、交換が可能。また、性能向上著しい時代によるデバイスの進化をそのまま光源に反映可能。光源性能の時代にあったアップデートが安価に容易にできるだけではなく、光源の増設など安価に発展性が広がる。
・一枚の画像に複数の時間情報を記録
処理された画像ではなく、生の撮影画像で物理現象を直感的に把握できる。
・簡単操作
装置そのものもシンプルなので、高度の知識が不要。電気的、デバイス的な知識や危険性も比較的小さく、当面、レーザーのような高エネルギー光源ではないため、家電程度の安全体制で運用可能。
・粒子追跡が容易
他可視化手法同様、粒子密度に依存するものの、粒子の追跡性は直感的、視覚的にわかりやすく、相関法などに頼らず確実に追跡可能。複数画像利用するなどの工夫によって、適用範囲、計測確度の向上の可能性もある。
・高発光周波数
発光周波数は、100Hz~10kHz。発光時間は 最長デューティー比約1/30、最短 3マイクロ秒。
などなど。
以上のように本装置では、数kHz 程度のストロボ発光と、三色の光源を利用した時間序列の静止画記録だけではなく、追跡粒子のトレースが、一枚の画像に記録できます。
粒子の軌跡を利用することによって、あるひとつの粒子の追跡が容易になり、通常のストロボ撮影や長時間撮影とは異なり、粒子の速度も明確になります。そのため、逆流やさまざまな動きをする粒子など、複雑な流れの観測に非常に適しています。ただし、撮影範囲に粒子数が多い場合には、判別しにくくなります。
本装置の特徴、サンプルなどについては、次ページ以降にて解説していきます。
なお、本装置に関してご興味のある方、またはご入手の方法につきましては、上方リンクボタンの[企業・技術者の方]より、 産学官連携機構 を通じて本研究室までお問い合わせください。
本実験装置は、照明をあてた粒子を長時間露光によって写真撮影を行うという、古来からある可視化方法に由来しています。
しかしながら、現装置では、約5kHz の発光間隔を持つ発光ストロボを用いているため、マクロレンズ使用で10cm四方程度の撮影領域であれば、秒速 120m/s 程度の粒子を追跡できる能力があります。
本装置のコンセプトの説明は以下のとおりです。
次の二つの写真。青い光のストロボ光(単色光)で撮影されていますが、この二枚の写真からそのちがいが読みとれるでしょうか。
ピントの善し悪しなどの差ではなく、左の写真はトラックは左方向に動いていますが、右の写真ではトラックは右方向に動いています。この二枚の写真からその運動を読みとることは困難です。
次に、この写真はどうでしょうか。
今回の写真では、先の青い光の写真とは異なりカラフルになっています。この写真からは、何か違いが読みとれるでしょうか。
今回の写真では、ストロボ光は、赤、緑、青 の順に発光しています。したがって、左右の写真ではトラックが同じ方向に動いているように見えますが、発光色の順に追いかけよく見ると、左の写真は後ろ向き、すなわち右の写真とは反対方向に動いているのがわかるはずです。また、少し加速していることもわかります。
発光色がRGBなので、市販ソフトを利用すれば以下のように分離することも簡単にできます。 RGBを追えば、トラックの模型が動いている方向も確認しやすいでしょう。
なお、この写真で使用した模型は、幌部分が緑であったため、青の光でも幌部分が緑色を反射し、GREENの写真に青色発光のときの幌がはっきり写っています。
また、撮影に使用した機材は、 Nikon D70, f=105mm, F/4, 1/2s です。ストロボ装置は最小周波数 100Hzで発光, 発光のデューティー比 10%なので発光時間は 0.001sec 、シャッタースピード1/1000相当です。模型の大きさが約30mmですので、これらより速度も求められます。